第58章

古沢正言が引き返してきた。

ベッド脇まで歩み寄り、病床の女を見下ろす。その目には、さっき布団の端を整えたときの温度など一欠片もない。

「医者が言ってた。お前は身体の土台が相当弱ってる、しばらく静養が必要だ」古沢正言は一拍置き、声を冷やした。事務的な硬さが滲む。「ただ、卿華。ひとつ、はっきりさせておくことがある」

新谷卿華は青ざめた顔を上げ、澄んだ瞳で彼を見る。

「……なに?」

「これからは、俺を緊急連絡先に登録しないでくれ」

古沢正言の声に体温はない。拒絶すら隠そうともしなかった。

「今日、病院から連絡が来て驚いた。伊予は繊細なんだ。俺が真夜中にお前のことで病院へ駆けつけたなん...

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