第73章

彼女が離婚を急いでいるのは――古沢正言のもとへ戻るためなのか。

「立花社長……」

前席の運転手が、車内の空気が一気に冷えたのを察して、おそるおそる声をかけた。

「走れ」

立花真淵は視線を引き戻し、氷の欠片みたいに冷たい声で言い捨てる。眼底で渦巻く殺気は、理性で無理やり押し込めた。

ウィンドウが静かに上がり、マイバッハが低く唸るようなエンジン音を響かせる。夜の闇へ、未練ひとつ残さず滑り込んでいった。

レストランの入口で、新谷卿華はようやく古沢正言の手を力任せに振りほどいた。

手首には赤い輪がくっきり残っている。二歩、距離を取る。刃物みたいに冷えた視線。

「古沢正言。最後に言う。...

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