第74章

数分後、新谷卿華は紙ナプキンをくしゃりと丸めてゴミ箱へ放り込み、身を翻して化粧室を出た。

廊下の角を抜けた、その瞬間だった。

正面のVIP個室の扉が、内側からすっと開く。

新谷卿華の足が、ほんのわずかに止まった。

立花真淵が、深い黒のオーダースーツに身を包み、扉口にまっすぐ立っている。背筋の通った立ち姿。廊下の薄暗い灯りが彫りの深い横顔を照らし、近寄るなと告げるような冷たさだけが浮かび上がっていた。

その隣にいるのは、華やかなドレスを纏った須藤郁夜。

新谷卿華が立ち止まった気配を、須藤郁夜は横目だけで敏感に拾う。

郁夜の瞳に、きらりとした光が走った。

さっきまで真淵とは、社交...

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