第80章

「きゃっ!」

須藤郁夜がいきなり悲鳴を上げ、手にしていたホットココアがぶわりと揺れた。数滴が芝生に落ちる。彼女は身をすくめて一歩引き、足元の草むらを怯えきった顔で見つめた。

立花真淵は我に返り、眉をひそめる。

「どうした」

「む、虫が……いるみたい……」

須藤郁夜の声は震え、目尻が瞬く間に赤くなる。泣きそうな目で、縋るように真淵を見上げた。

小さくない騒ぎに、周囲の数人がちらちらと視線を向ける。

新谷卿華もその声を聞き、反射的に顔を上げた。焚き火の向こう、オフロード車のある方角へ――淡々と、ただ一瞥。

須藤郁夜は、その視線を敏感に捉えた。

脚の力が抜けたふりをして身体を傾け...

ログインして続きを読む