第83章

立花真淵の胸が、どくんと跳ねた。

――すべてを失い、手の届かない場所へ行かれてしまう。

そんな、制御不能の恐怖がまた喉元を掴む。

彼は大股で詰め寄り、彼女の手首を乱暴に掴んだ。

「新谷卿華、お前……この扉を出る気か――」

そのとき、不意にノックの音が割り込んだ。

扉の向こうから坂東の声。

「若様、若奥様。お婆さんがお目覚めでして、朝食をご一緒されるかと」

立花真淵の意識が逸れた、その隙に。

新谷卿華は力任せに手を引き抜く。

乱れた袖口を整え、余計な視線ひとつ寄こさないまま、扉を開けて出ていった。

立花真淵はその場で硬直した。

掌だけが、空っぽだ。

決別の背中を睨み据...

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