第90章

以前、彼女が病気になったときも、新谷卿華はこんなふうに付き添っていた。あの頃の立花馨は、それを媚びだと決めつけていた。

けれど今は、新谷卿華が余計な視線ひとつ寄こさない。なのに立花馨は、立花家の中でいちばん気が利いて、いちばん心地よかったのは、新谷卿華に看病されていた時間だったのだと、皮肉にも思い知らされる。

その事実が腹立たしくてたまらない。立花馨は寝返りを打ち、布団を頭まで引き上げると、そのまま重く眠りに落ちた。

夜七時。立花馨の体温はようやく安全域まで下がった。

新谷卿華は立ち上がり、洗面所で手を洗ってから、自分のトレンチコートと帆布のバッグを手に取る。帰る支度を整え、一階の玄...

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