第93章

立花真淵は、ひとりでトレーを持つ新谷卿華の姿を一目で捉えた。

視線を素早く彼女の周囲へ走らせる。金田川浬の姿はない。――それだけで、一晩中張りつめていた胸の奥が、理由もなく少しだけ軽くなった。

わざと歩みを落とし、通路の真ん中で足を止める。

これ以上ないほど露骨な合図だ。

彼女がこちらへ来さえすれば、情けをかけて相席を許してやる。昨日の冷戦だって、いったん棚上げにして朝食くらい一緒に取ってやってもいい。

須藤郁夜はそれを見て胸がきゅっと締まった。反射的に立花真淵の腕へ絡みつき、所有権を誇示しようとする。だが彼は、何事もなかったようにすっと身を引き、触れさせなかった。

立花真淵は深...

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