第1章

 今日は私とヴィニーの、結婚一千日目の記念日だった。

 彼が一番気に入っている青いワンピースを纏い、腕によりをかけてイタリアンのコースを用意し、テーブルには薔薇の花まで飾った。私はリビングに座り、壁の時計を睨みつけながら、彼の帰りを待っていた。

 七時、八時、九時半……。彼はまだ帰ってこない。

 胸がざわつく。ここ数ヶ月、ヴィニーの帰りは遅く、シャツからは他の女の香水の匂いが漂っていた。問い詰めても、返ってくるのは決まって「家族の用事」という言葉だけ。だが、そのジャスミンの香りには覚えがありすぎる――ソフィアの匂いだ。

 私の親切な従姉、ソフィア。表向きは私のことを気遣うふりをしながら、裏ではいつも、私の夫をねっとりとした視線で追っていた。まさかヴィニー、本当にあの女のところへ?

 考えると腹が立ってきた。私はソフィアから預かっていた合鍵を掴むと、彼女の家で待ち伏せしてやることにした。もし現場を押さえたら、もう言い逃れなんてさせない。

 ソフィアの家は真っ暗で、まだ帰宅していないようだった。二階へ上がり寝室に入ると、部屋中があの忌々しいジャスミンの香りで充満している。

 ベッドに腰を下ろして待っていたが、いつの間にか睡魔に襲われ、うっかり眠り込んでしまった。

 どれくらい時間が経っただろう。玄関が開く音で目が覚めた。

 意識が朦朧とする中、階下から足音と、ソフィア特有の甘ったるい笑い声が聞こえてくる。

「今夜は最高だったな、ソフィア」

 低い男の声。血の気が引いた――ヴィニーの声だ!

「デートに来てくれるって信じてたわ」ソフィアが得意げに笑う。「家で待ちくたびれてるあの女――ふふ、ヴィニー……あなたのニーズを理解してるのは、私のほうでしょう?」

「あいつの話はやめよう」ヴィニーの声には笑みが滲んでいる。「今夜は、君だけが欲しい」

 心臓が早鐘を打つ。私は慌ててベッドから転がり落ち、その下へと潜り込んだ。足音が近づいてくる。証拠を押さえるため、私は携帯電話を取り出した。

 寝室のドアが開く。シーツの隙間から、抱き合いながら入ってくる二つの人影が見えた。卑猥な水音が響く。

「たまらないな、ソフィア」ヴィニーの息が荒い。

「当然よ」ソフィアは鼻を鳴らし、甘い声で続けた。「私は誰かさんみたいに退屈じゃないもの……あっ……家で不機嫌な顔をして待つしかできない女とは違うわ」

「ねえ、ヴィニー……んっ……彼女より私のほうが、あなたを満足させられるでしょう?」

 再び、激しい口づけの音。

「答えは分かってるはずだ」ヴィニーが低く囁く。

 衣類が引き裂かれる音がして、ソフィアが淫らな笑い声を上げた。

「好きにして……ああ……そこ……もっと激しく」

 マットレスが軋み始める。

 ヴィニーが何か低く応じたが、よく聞き取れない。聞こえるのは、繰り返される接吻の音と喘ぎ声だけ。

 怒りで全身が震える。それでも耐えて、録音を続けた。

 だが、次に起こったことは、私の予想を完全に裏切るものだった。

 ソフィアの甘い喘ぎ声が、突如として絶叫に変わったのだ。

 ベッドが狂ったように揺れる。情事のためではない、彼女が必死に抵抗しているからだ。

「やめて! ヴィニー、気が狂ったの!?」

 ソフィアの叫びが夜を切り裂く。何かがベッドの端から滴り落ち、私の額に当たった。

 指で拭うと、それは生暖かく、粘り気のある液体だった――血だ!

 悲鳴を上げそうになり、慌てて両手で口を塞ぐ。

 私の夫。あの優しかったはずの男が、今まさに私の従姉を殺そうとしている!

 ベッドの上から、グチャッ、グチャッという音が聞こえる。鋭利な何かで肉を突き刺す音だ。ソフィアの叫び声は次第に弱まり、やがて完全に途絶えた。

 濃厚な血の匂いが充満し始める。私は目を閉じ、これは夢だ、悪夢だと必死に自分に言い聞かせた。

 数分後、ベッドの上の動きが止まる。ヴィニーが起き上がり、ライターを擦る音がした。紫煙の匂いが血臭と混じり合い、嘔吐感を催す。

 その時だ。私の携帯が突如として「ピン」と鳴った――死寂に包まれた部屋で、その通知音はあまりにも耳障りに響いた。

 ベッドの上が、瞬時に凍りつく。

「今の音はなんだ?」ヴィニーの声が鋭くなる。

 心臓が破裂しそうだ。震える指で携帯をマナーモードにし、見つからないでくれと心の中で絶叫する。

 ヴィニーがベッドを降り、部屋の中を歩き回る気配がした。

 シーツの隙間から見える彼は裸足だった。一歩踏み出すたびに、血の足跡が床に刻まれていく。音の出所を探しているのだ。足音が徐々に近づいてくる。

 突然、彼は激しく咳き込み始めた。聞き覚えのある咳だ。最近、夜中によく彼を苦しめていたものと同じ。

 発作が治まると、彼は寝室を出て行った。階段を降り、キッチンへ向かう音が聞こえる。

 私は必死に逃げ道を探した。窓から飛び降りる? 死なないにしても足を折れば、這って逃げることすらできない。

 他の部屋に隠れる? だが床は血の海だ。

 手の震えが止まらず、冷や汗が背中を濡らす。

 深呼吸をして、覚悟を決める――今しかない! 彼が階下にいるうちに走り抜けるんだ!

 一歩踏み出した瞬間、再び足音が響いてきた。

 心臓が口から飛び出しそうになり、呼吸すら忘れる。間に合わない! 私は慌ててベッドの下へ這い戻った。膝を床に強打し、激痛で思わず声を上げそうになるのを、唇を噛みしめて耐え、奥へと身を潜める。

 彼が戻ってきた。床に落ちた影が、手に大きな包丁のようなものを握っていることを告げている。

 そこからの二十分間は、まさに地獄だった――ソフィアの死体を解体する音、刃物が骨を断つ音、切断された四肢が床に落ちる鈍い音……。

 この悪夢もそろそろ終わるかと思ったその時、何かがころりと私の目の前に転がってきた。

 ソフィアの生首だ。見開かれた瞳孔、恐怖に歪んだ表情。その目が、じっと私を見つめている。

 悲鳴を上げそうになり、思わず手を伸ばして押し退けようとした。

 だがその時、ヴィニーが何かに躓き、その反動で生首がさらに私の方へと転がってきた。

 ヴィニーの動きが止まる。

「おかしいな……」何か違和感を覚えたように、彼が呟く。

 彼の足が、私から一メートルも離れていない場所で止まった。そして、ゆっくりとしゃがみ込む。心臓の鼓動が限界を超え、掌は汗でびっしょりだ。

 終わった。見つかる。私もソフィアのように殺されるんだ。

 その時、切断されたソフィアの指から金の指輪が滑り落ち、床に当たってチャリンと澄んだ音を立てた。

 ヴィニーが動きを止める。手にはまだ、血の滴る刃物が握られている。

 私は目を閉じ、心の底から祈った。神様、助けて。お願いだから見つからないで。こんなところで死にたくない……。

 ヴィニーが指輪を拾おうと身を屈めた、その瞬間だった。玄関のドアが激しく叩かれた。

 ドンドンドン!

「開けてくれ! 帰ったぞ!」

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