第131章 動かない

黒いロールスロイスが、音もなくリバーサイドレジデンスの地下駐車場へ滑り込んだ。

ヘッドライトが落ち、周囲はしんと静まり返る。

運転手はルームミラー越しに後部座席の男をうかがい、慎重に声をかけた。

「橘社長、到着いたしました」

橘徹は動かない。

広い本革シートにもたれ、窓の向こう――少し先のエレベーターホール入口を見つめていた。瞳の奥は、底が読めないほど暗い。

手元には、丁寧に包まれた白いギフトバッグ。

中身は、さっき買った香水だ。

このまま上がるのか。

上がって、どうする。

ドアを叩いて、贈り物を渡して、それから――

「悪かった。陰でお前の……あのこと、口にした」

そ...

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