第137章 一生ここに残るべきだ

「俺から逃げるために、慰謝料すら要らないってか……」

国分礼二は、ふいに神経質な笑いを漏らした。がらんとした書斎に、その笑い声だけが不気味に響く。

「だが、俺と結婚した以上――夏目凛は一生、国分家の人間だ。たとえ死んでも、墓碑には『国分凛』の三文字を刻ませる」

礼二は勢いよく顔を上げ、窓の外を睨みつけた。目の奥に沈む闇が、ぞっとするほど濃い。

凛は本当に心が冷え切ったのだと、礼二は思い込んでいた。だが今、もっと都合のいい理由を見つけてしまった。――金を受け取ったのだ、と。

あの一千万円の治療費。返したかどうかなど関係ない。礼二の歪んだ理屈では、それは取引であり、凛が自分に差し出した...

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