第143章 人違いだ!

「人違いです」

夏目凛の声は小さい。けれど、氷みたいに冷たかった。

「人違い? そんなわけあるか!」

高橋は太腿をバンと叩き、さらに声を張り上げる。

「国分夫人! 去年、国分家の旦那様の還暦祝いのとき、夫人が旦那様にお茶をお淹れしたでしょう。俺、その横で果物の皿持ってましたよ! 夫人、紺の着物着てて、旦那様が『品があって堂々としてる』って褒めて……『国分家が娶れたのは一生分の幸運だ』って――」

「……もういい」

夏目凛が遮った。力の入った指先が白い。

「あなたのことは知りません。勝手に呼ばないでください。みんなも、もう退勤時間でしょう。ここで足を止めないで。迷惑です」

そう言...

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