第178章 パスワード

夏目凛は、そのとき何も言わなかった。

電話の向こうで、高坂修治がふう、と息を吐く。

「夏目さん、あの人……本当に諦めてません。控訴状を出したタイミングが出来すぎてる。まるで勾留日数を計算してたみたいに」

夏目凛は淡々と聞き返した。

「高坂弁護士、二審では、こちらは何を追加すべきですか」

「不貞の証拠は一審で一通り出してます。二審で相手が前言を翻した場合に備えて、もっと硬い材料が要る。できれば直接証拠。動画、音声、あるいは第三者の証言」

「私が手を打ちます」

「頼みます。何か掴んだら、すぐ連絡してください」

通話を切ってからも、夏目凛はデスクに座ったまま、長いこと動けなかった。...

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