第19章 協議書

夜は深く沈み、アトリエを照らすのはフロアランプの灯りひとつだけだった。

名取心美は白いロングドレスに素足。浮世離れした妖精みたいにイーゼルの前へ立ち、静かに絵具を練っている。

そこへ、外から乱暴にドアが押し開けられた。冷気を纏った国分礼二が、ずかずかと入ってくる。

気配に気づいた心美が振り返る。彼の陰った顔色を見た瞬間、彼女の頬にふわりと柔らかな笑みが咲いた。

「礼二、どうしたの? こんな遅くに。まだ夕飯も――」

「俺、さっき警察署から出たところだ」

国分礼二は一歩、また一歩と距離を詰める。

「国分凛が駐車場で強盗に遭った。怪我もしてる」

心美の手がびくりと震えた。筆先から鮮...

ログインして続きを読む