第66章 彼を空気扱いした

夏目凛は、彼が車のドアを開ける仕草を見た。血走り、懇願の色を宿したその目も見た。けれど胸の奥は、微塵も揺れない。

まるで自分とは何の関係もない、落ちぶれた見知らぬ男を眺めているみたいに。

「結構です、国分社長。私たちの間に、送迎なんて必要な関係はもうありません」

そう言い切ると、彼女はそれ以上一瞥もくれず、すっと脇をすり抜けて歩道へ出た。タクシーを拾うつもりで、車道のほうへ向かう。

背筋は真っすぐ。踏み出す一歩一歩が、国分礼二の心臓を踏みつけていく。

駆け引きじゃない。

拗ねているわけでもない。

本当に――彼を、空気みたいに扱っている。

国分礼二はその場で固まった。伸ばした手...

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