第85章 うちの奥様、俺の同意を得ましたか?

夏目凛は屋上の隅へ歩み寄り、風を背にして、はっきりと声を届けた。

「彼の名前は伏せます。離婚手続き中だってことだけ説明して、今は独身だって伝える」

鳴瀬優真の胸が、見えない手にそっと持ち上げられたみたいに軽くなる。

彼女は国分礼二との関係を、認めたくないのだ。

それどころか、人前であの男の名を口にすることすら避ける。

――未練なんて、欠片もない。

その事実が嬉しくてたまらない。なのに同時に、胸を覆い尽くすほどの痛みが押し寄せた。

この三年。

表に出せない「国分家の奥様」という肩書きを被せられて、どれほど理不尽を飲み込んできたのだろう。

喉仏が上下する。声が少し掠れた。

「...

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