第86章 うちの奥様、俺の同意を得ましたか?

夏目凛は無表情のまま、スマホの画面を三秒だけ見つめた。指先がすばやく走る。番号を長押しして着信拒否に放り込み、メッセージを削除してから、端末をバッグへ投げ戻した。

表情は変わらない。何も見ていないかのように、静かで、淡々としている。けれど身体の横に垂らした指先だけが、わずかにきゅっと丸まった。瞳の奥に、気づく者だけが拾える刃が潜む。

分かっている。国分礼二の仕業だ。

監視。牽制。――そして、くだらない「所有権」の誇示。

だが彼女は、誰かの盤上で動く駒じゃない。

会議室はすでに人が引け、ほとんど空になっていた。残っているのは財務部のインターンだけ。席に貼りついたまま、顔色は紙みたいに...

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