第87章 うちの奥様、俺の同意は得たのか?

和やかで、あたたかい和食店。

同僚たちは杯を交わしながら、仕事の小ネタや生活の噂話で盛り上がっていた。空気は軽く、それでいて熱がある。

夏目凛は隅の席で、湯気の立つ麦茶を両手で包み、静かに耳を傾けていた。

こんなふうに生き生きとした、人の暮らしの匂いがする場所――彼女は、あまりにも長いあいだ味わっていない。

国分家で過ごした三年。別荘はいつも冷たく、静かで、豪奢な墓のようだった。

食卓にあるのは、箸と器が触れ合う乾いた音だけ。あとは、彼女がひとり息を殺す気配。

「夏目リーダー、なんで飲まないんすか?」

若い男性社員がグラスを掲げて寄ってくる。

「今日は夏目リーダーが大功労者っ...

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