第92章 執念深い狂犬

バックミラーの中で、あの車が――ぴたりと、彼女たちの後ろに貼りついていた。

橘彩花は苛立ちのままハンドルを拳で叩きつける。クラクションが、ぎゃん、と耳を裂くように鳴った。

「マジで頭おかしい! しつこすぎ!」

夏目凛は振り返らない。ただシートに背を預けたまま、血の気のない顔で息を整えていた。

目を閉じても、脳裏に勝手に浮かぶ。国分礼二の、血走った眼。狂気と絶望がないまぜになった、あの視線。

復讐の快感は、確かにあった。

けれど、それが引いたあとに残ったのは、底なしの疲労と、荒れ果てた空白だけ。

「凛、怖がらなくていい!」彩花がバックミラー越しにちらりと彼女を見て、胸が締めつけら...

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