第1章

 私は、最も崇敬される純血の『光』の後継だった。

 前世で私は、至高聖騎士アーサーと結婚した――その末に産んだのは、『灰』の血を引く子。最底辺の、出来損ない。

 怒り狂った彼は、わが子を生きたまま焼き払った。続いて産後で血の気の引かない私の体を引きずり、塩水の地下牢へ放り込んで魔力を搾り取った。毒虫に食い尽くされるまま、私は見捨てられた。

 その間、卑しい『灰』の血の妹は奇跡のように『光』の血を引く子を産み、私の死体を踏み台にして新たな支配者へと成り上がった。

 再び目を開けたとき、私は『番』選定の儀に戻っていた。アーサーは公の場で私を拒み、妹を選んだ。

 あの得意げで計算ずくの笑みを見た瞬間、確信した。――彼もまた、蘇っている。

 だが、妻の魔力を吸い上げることでしか聖なる血筋を装えない寄生虫の騎士が、どうやって至高の竜を父するというのだ?

 ……

「エレナとは契約しない。俺が選ぶのはセレナだ」

 私ははっと目を見開いた。視線は祭壇の前でひざまずく男へ落ちる。

 アーサー。前世の夫。

 私は生まれ変わっていた。悪夢が始まった、まさにその日に。

 前世の私は、まさにこの場所に立っていた。そしてアーサーの手に、自分の手を重ねた。

 結婚してから毎晩、私は進んで純粋な魔力を彼に与え続けた。偽りの聖なる気配を保たせ、彼を権力の頂へ押し上げるために。

 その報いは、何だった?

 鈍い灰色の鱗を持つ子を産んだ瞬間、アーサーはへその緒が切られるのすら待たなかった。聖炎を呼び出し、わが子を生きたまま焼き殺したのだ。

「穢れた灰の化け物だ!」と叫びながら、彼は私を水牢へ引きずっていった。

 浄化の陣を用い、私の守護の紋章と魔力を一滴一滴、根こそぎ抜き取って。

 奪った力で『聖なる奇跡』を捏造し、セレナ――私の腹違いの妹――を新たな後継へと戴冠させた。私を干からびるまで吸い尽くし、あいつらの帝国を築いたのだ。

 案の定、左手からか細い息が漏れた。セレナが口元を覆い、怯えた鳩のように一歩退く。

 だが、指の隙間から覗くその瞳に、抑えきれない捕食者の恍惚がちらつくのを私は見逃さなかった。

 こいつも――蘇っている。

 勝者の記憶を携えて戻ってきた者の、あの傲慢な視線。今度は取り繕う気もないのだろう。最初からアーサーを奪い取るつもりだ。

 そのとき、圧し潰すような覇気が聖域を叩いた。前列の下級貴族が十数名、瞬く間に膝をつく。

 父――大陸唯一の『星』の古代竜が、黄金の玉座から立ち上がった。

「今の言葉を、もう一度言え」

 声は大きくない。だが鼓膜が裂けるほどの重みがあった。闇金色の縦に裂けた瞳が、アーサーを射抜く。

 アーサーは奥歯を噛みしめる。

 『星』の威圧の下で首筋に血管が浮いたが、それでも頭を垂れない。「我が君。ご指名の後継ではなく、第二の姫セレナとの契約を望みます」

 血が、呼吸する権利すら決める世界。『星』が絶対で、その次に『光』。『銀』、『紅炎』、そして最下層が『灰』。

 父が独裁者として君臨できるのは、『星』の血統ゆえ。

 私は『光』の器として完璧に育てられた。

 セレナは、侍女から生まれた『灰』の私生児にすぎない。

 アーサーの行いは、父の面目を公衆の前で叩き潰す平手打ちだった。公爵家が誇る後継は、灰の屑よりも劣る――そう宣言したも同然だった。

「エレナは最上位の『光』の血統だ」

 父が荒々しく遮った。巻き起こった怒風が、壁を飾るタペストリーをびりびりと裂く。

「貴様は至高聖騎士。使命はただひとつ、彼女と交わり、子を成すことだ。命令だ、アーサー」

 子を成す。

 その言葉は、ざらついた紙やすりみたいに私の鼓膜を削った。私は、私を生ませた男を冷えきった目で見据える。

 父の瞳に、辱めを受けた娘への同情など欠片もない。あるのは、繁殖計画を狂わされたことへの激怒だけ。

 前世とまるで同じだ。

 アーサーが私の鱗を剥ぎ、死んだ犬みたいに引きずって地下牢へ連れていったとき、父は兵の一人すら止めに寄こさなかった。

 父が欲しいのは、権力を盤石にする強い子だけ。セレナが産めるなら、器を入れ替える程度、父にとってはどうでもよかったのだ。

「お父さま! お願いします!」

 セレナがよろめきながら前へ出て、涙をこぼして膝をついた。

「アーサー様と私は本当に愛し合っているんです! 憎んでいる女と契約しろなんて、そんなこと強いられません!」

「黙れ! 汚らわしい灰が、この床を踏めるとでも思っているのか!」

 前列の『銀』の血を引く伯爵が叱りつける。

 アーサーは唐突に立ち上がり、重い外套の留め具を外すと、一歩前へ出てセレナを庇うように立った。

「俺が彼女を憎むのは、彼女が『光』の竜ではないからだ!」

 アーサーは私の顔を指さした。

「エレナは偽物だ! 卑劣な『灰』の血の成りすまし! 俺たちを欺いた!」

 ざわめきが、悲鳴混じりの息となって広間を満たした。

 壁沿いに並ぶ聖騎士たちが反射的に大剣へ手を落とす。敬虔だった眼差しが一瞬で敵意に塗り替わった。

 私は退かない。爪が掌に食い込むほど握りしめる。

 来ると思っていた。

 生まれ変わった彼の視点では、前世で私が『灰』の子を産んだことこそ、私が偽物だという動かぬ証拠になる。

「血統詐称」をでっち上げれば、婚約破棄を正当化できる。セレナを持ち上げ、異端の粛清という名目で、その場で私の魔力を合法的に剥ぎ取れる。

「正気か!」

 父が咆哮し、掌に竜の息が渦を巻いて集まる。

「後継を誹るなど――今この瞬間、貴様の心臓を握り潰してやれる!」

 竜の息を前にしても、アーサーは吠え返した。目は狂気じみた計算の光を宿している。

「彼女が純粋な『光』なら、皆の前で真の竜形を示せ! 鱗が白いなら、俺の首をあなたの酒杯にして差し出そう! だが、もし『灰』なら……聖域の手で粛清されるべきだ!」

「お姉さま、変身して! 早く!」

 セレナがアーサーの鎧にしがみつき、私へ向かって泣き叫ぶ。

 だが死角で、彼女の唇は毒々しい笑みへ歪んでいた。

「お願い、証明してみせて」

 侍女が涙目で私の袖を必死に引く。

「お嬢さま、どうか『光』の気配を……!」

 私は視線を落とした。

 胃の奥から激しい痙攣が突き上げ、背骨が思い出してしまう。生きたまま鱗を引き剥がされた、あの底なしの絶望を。

 前世でアーサーは、まさにこの聖域の陣を使って私の鱗をこじ開け、飢えた吸血鬼みたいに血統の紋章を吸い上げた。

「静まれ」

 父の骨まで冷やす声が、あらゆるざわめきを押し潰した。今ここで噂を叩き潰せねば、父の正統性が致命的に揺らぐ。

「エレナ」

 父が命じる。

「真の姿を現せ」

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