第百三十章

「九条さん……」

綾子が口を開きかけた瞬間、千枝は慌ててパンを彼女の口に押し込み、首を横に振った。

幸いにも、悠はすぐに上の階へ向かい、こちらのダイニングエリアに視線を向けることはなかった。

それでも、桃乃歌菜の声は千枝の耳にしっかりと届いていた。

「悠、お疲れ様。わざわざ迎えに来てくれてありがとう。でも、フロア貸し切りなんて、ちょっとやりすぎじゃない?」

悠がどう答えたかまでは聞き取れなかった。だが、先ほどの彼の優しい微笑みを思い返せば、容易に想像がつく。絶対に何か言葉を返しているはずだ。

――君のためなら、なんだってするよ。

――君には最高のものがふさわしいから。

――君...

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