第55章

千枝は助手席に座ったまま、息を潜めていた。

悠の全身からは重苦しいオーラが放たれ、親の仇のように強く握られたハンドルの上で、指の関節が白く浮き出ている。

千枝は何度か勇気を振り絞ろうとしたが、結局ひと言も発することができなかった。

何を言えばいいのかわからず、ただうつむいて指先をいじり続けるしかない。

ふと顔を上げたとき、彼女は異変に気づいた。

「社長、重要な会議があるのでは……?」

会社とは完全に逆方向だ。しかも、進めば進むほど遠ざかっている。

千枝は慌ててスマホのナビアプリを開いた。

「道、間違えていませんか? 会社は――」

急ブレーキ。

慣性の法則で千枝の身体が前の...

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