第70章

千枝が顔を上げると、悠の視線とぶつかった。彼は彼女をじっと見つめており、その瞳には彼女には読み取れない感情が揺らめいていた。

「九条社長!」慌てて背筋を伸ばす。「どうしてこちらに?」

悠の視線が彼女の手元に落ちる。千枝は誤解されるのを恐れ、持っていた書類を慌てて背中へ隠した。

もう会社を去る身なのだ。せめて最後くらいは、彼に良い印象を残しておきたい。

「なぜまた泣いているんだ」

『また』という言葉に、千枝はどう説明していいか分からなくなった。

もともと泣き虫なわけではないのに、なぜか泣いているときは必ずと言っていいほど悠に出くわす。本当に間が悪いとしか言いようがない。

彼女が黙...

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