第2章
「私の超能力はね」
彼女はしゃくり上げながら言った。
「ターゲットを攻撃して『お前が佐藤勇なんて名乗る資格がない!』って叫ぶと、相手の名前を佐藤勇に変えられるの……これって、超役立たないじゃない?」
「待って……」
私の声は震えていた。
思わず口角が上がる。この三年で、これほど興奮したのは初めてだった。
「今日まで、私たち二人の超能力はマジで何の役にも立たなかった。でも、今日からは……私たちは無敵だよ!」
「無敵?」
安奈は目を丸くした。
「そうだよ。私は、佐藤勇って名前の人なら誰でも、その超能力を奪うことができる」
私は声を潜めて説明した。
「でも、一つ条件があって——佐藤勇が私を攻撃してくれないと、その超能力は手に入らないの」
「わっ!」
安奈はびっくりした、すぐに何かを悟った。
「ってことは、安奈ちゃんが人を佐藤勇に改名させて、そしで彼らに藍ちゃんを攻撃させれば、藍ちゃんは彼らの超能力を獲得できる」
「その通り!」
私は頷いた。
「あなたの超能力の発動条件は?」
安奈は興奮して手を振っている。
「安奈ちゃんが相手を攻撃して、『お前が佐藤勇なんて名乗る資格がない!』って叫ぶ必要がある」
「私たちの超能力……」
安奈はわくわくしながら私の手を握った。
「完璧に補い合ってる!」
私たちは思わず叫び出しそうだった。
私たちは顔を見合わせて笑った。まるで、この災害時代の最終兵器を見つけ出したかのように。
「行こう、試しにいってみよ!」
私たちは廃墟となったコンビニの裏で、佐藤勇剛を見つけた。
かつて私をいじめていたこの男は、そこでタバコを吸っていた。私たちが近づいてくるのを見ると、彼は軽蔑的な笑みを浮かべた。
「よぉ、またビスケットを届けに来たのか?」
安奈が私に視線を送る。私は静かに頷いた。
彼女は深呼吸を一つすると、駆け出して佐藤勇剛の腹に拳を叩き込み、同時に大声で叫んだ。
「お前が佐藤勇なんて名乗る資格がない!」
佐藤勇剛は体を曲げた、突然呆然とした表情を浮かべた。
「お、俺……名前、なんだっけ?」
「佐藤勇でしょ、忘れちゃったの?」
私は心配するふりをして尋ねた。
「あ、そうか……俺は佐藤勇……」
彼はぶつぶつと呟き、次第に意識がはっきりとしてきた。
佐藤勇は体を起こし、怒鳴りつける。
「てめえら、死にてえのか?」
彼は私に向かって手を伸ばしてきた。
その指が私に触れた瞬間、奇妙なエネルギーが彼の体から私へと流れ込んできた。体内に今までにない力が満ちていくのを感じる。一方、佐藤勇の表情は怒りから驚愕へと変わっていた。
「俺の能力が……感じられねえ……」
私は微笑み、軽く指を鳴らした。途端に佐藤勇は膝から崩れ落ち、地面にひざまずいた。かつて彼が私にしたことと、まったく同じように。
「な……なんでだ?」
彼は怯えた目で私を見上げた。
「あなたの超能力は、今から私のものよ」
私は低く囁き、体内で新たに得た能力を確かめた。
コンビニを後にしてから、安奈は興奮してぴょんぴょん跳ねていた。
「すごい! 本当に成功したね!」
「これからはもう佐藤勇を探さなくてもいいよ。安奈ちゃんが藍ちゃんに、いっぱいの佐藤勇を届けてあげるからね〜」
彼女は自信満々に言った。
私は頷く。
「悪い奴らの超能力だけを集めよう。そうすれば、私たちは強くなれるし、世の中から悪人も少しは減る」
「下町区の外にある暗流クラブには、無法者のろくでなしがいっぱい集まってるって聞いたよ」
安奈が提案した。
「明日、そこに行ってみない?」
「いい考えね」
翌日、私たちは万全の武装で暗流クラブの前にやって来た。
私は鋼鉄製のヘルメットを被り、安奈は鉄製の手袋をはめている。あらゆる攻撃に対応する準備は万端だ。
「わっ! あれって藍ちゃんの彼氏じゃない!」
安奈が突然、前方にいるスーツ姿の男を指差して叫んだ。
彼女が指差す方を見て、私は思わず眉をひそめる。
「元カレね、訂正して」
渡辺拓也。災害前の私の彼氏だ。大崩壊の前、彼は経済的に困窮していて、私の援助で生活していることが多かった。ところが災害後、彼は物を部分的に大きくしたり小さくしたりする超能力に目覚めると、すぐに私を捨てて新しい彼女を作った——物を部分的に硬くしたり柔らかくしたりする能力を持つ女だ。
「奇遇だな、小鳥遊」
渡辺拓也は驚いたふりをして声をかけ、彼女を連れて近づいてきた。
安奈は私を見て、私が頷くのを確認すると、すぐさま駆け出して渡辺の彼女に一発殴た。
「お前が佐藤勇なんて名乗る資格がない!」
彼女は茫然と瞬きする。
「わ、私……名前は?」
「勇ちゃん、大丈夫か?」
渡辺拓也は心配そうに問いかけ、すぐに自分が何を言ったかに気づいたが、もう遅かった。
「はい、私が佐藤勇です……」
彼女は戸惑いながら答えた。
私はその隙に、鋼鉄のヘルメットで二人まとめて頭突きを食らわせた。彼らが慌てふためいている間に、超能力の剥奪を完了させる。
私が彼らを攻撃したのだから、私も痛い。それなら、彼らが私を攻撃したのと同じことだ。
「俺の能力が!」
渡辺拓也は恐怖に叫んだ。
「消えた!」
彼の彼女も、自分の超能力が使えなくなっていることに気づき、パニックになっだ。
私は渡辺拓也を冷たい目で見つめ、それから彼の下半身をじっと見据えた。
「柔らかくなれ、小さくなれ」
渡辺拓也は突然顔色が悪くなった、同じく恐怖に引きつった彼女の手を引いて慌てて逃げ去った。
その時、暗流クラブの扉が急に開いた、数人の屈強な男たちが飛び出してきた。
「暗流クラブの入り口で騒ぎを起こすたぁ、死にたいらしいな!」
