第4章
私の前には二列の人が立っていた。一列は、坂本龍やあの痩せっぽちの男を含め、超能力を剝奪された者たち。もう一列は、まだ剝奪されていないクラブのメンバーで、彼らは恐怖、好奇心、そして期待が入り混じった様々な表情を浮かべていた。
「今日から、私があなたたちの新しいボスよ!」
私は宣言した。
「ここはもう、暗流クラブじゃない」
私は周囲を見回し、続けた。
「私たちは護衛社を立ち上げるわ。名前は『佐藤勇護衛社』。下町区の弱者を守るための会社になる!」
クラブのメンバーたちは顔を見合わせ、明らかにこの変化に戸惑っていた。
私の隣に立つ安奈が、脅すように言う。
「残りたい人にはご飯と住む場所をあげる。そうじゃない人はねぇ~」
彼女はニヤリと悪戯っぽく笑った。
「名前を佐藤勇に変えちゃうよ!」
その言葉を聞いて、皆はその意味を即座に理解した。
彼らは次々と残る意思を示し、私たちの命令に逆らう者は一人もいなかった。
全員が去った後、安奈は興奮したように手を擦り合わせた。
「これで安奈ちゃんも、楽して藍ちゃんの飾り物になれたね~」
私は思わず笑ってしまった。
「もっと綺麗になる」
安奈は興奮した。
「本当? 安奈ちゃん、綺麗になれるの?」
私は傍らのソファに腰を下ろし、指先を器用に動かして渡辺拓也の拡大縮小能力を操り、安奈の体の各部位を精密に調整していく。
「すごいすごい! 二十年以上ぺったんこで生きてきたけど、こんなにボリューミーになったの初めてだよ!」
安奈は鏡の前に立ち、大きくなったばかりの胸を両手で抱え、満面の笑みを浮かべた。
「動かないで。まだ調整が終わってないから」
私は集中し、指先を微かに震わせながら言った。
「腰をもうちょっと細くしてあげる」
安奈は言われた通りにすっと背筋を伸ばしたが、顔の笑みは隠せない。
「安奈ちゃん、これから美人さんだね。イケメンいっぱい引き寄せられるかな~」
「まだ初日よ。これから数日間、調整を続けてあげる」
私はそう言って立ち上がり、安奈の背後に回った。
「さあ、うつ伏せになって」
「え? 何するの?」
安奈は不思議そうに尋ねた。
「坂本龍の電気操作能力、マッサージに使えるって気づいたの」
私は指先から微弱な電流を放った。
「リラックスして。気持ちいいから保証するわ」
安奈は素直にベッドにうつ伏せになった。私の指が微弱な電流を帯びて彼女の背中に触れると、満足のため息を漏らした。
「あぁ~、気持ちいい~。藍ちゃんが男の子だったらよかったのになぁ」
「こら、変なこと言わないの」
私は軽く彼女を叩いた。
「続きは明日。今日はまだ、やるべきことがあるんだから」
下町区の路上で、私は「佐藤勇護衛社」のメンバーたちを率いてボランティア活動を行っていた。
「あそこで不良が子供をいじめてる。対処してきて」
私は数人のメンバーに指示を出した。
「社長、東で変異生物が住民を襲っています!」
一人のメンバーが慌てて報告に駆けつけてきた。
「安奈、行くわよ」
私は安奈に声をかけ、急いで現場へと向かった。
それは変異した犬だった。体は普通の犬の三倍ほどに膨れ上がり、毛は不自然な藍色を呈している。数人の怯えた住民を追いかけていた。
「お前が佐藤勇なんて名乗る資格がない」
安奈が駆け寄り、変異犬を殴た。
変異犬は茫然と足を止める。私はその隙に近づいてそれに触れ、瞬時に変異能力を剝奪した。犬はすぐに元の大きさに戻り、不思議そうに私たちを一瞥すると、尻尾を巻いて逃げていった。
近くの住民たちはその光景を見て、一斉に拍手を送った。
「佐藤勇護衛社だ!」
「彼女たち、本当にすごいわ!」
「やっと私たちを守ってくれる人が現れたんだ!」
私たちは下町区の巡回を続け、超能力で悪事を働く者を何人か見つけては、安奈が容赦なく改名させ、私が能力を剝奪していった。
少し離れた場所で、山田老人が子供たちを連れて歌を歌っていた。「佐藤勇いれば、何も怖くない」
私たちが近づいてくるのを見て、山田老人は笑いながら声をかけてきた。
「藍ちゃん、君たちの護衛社は本当に良いことをしてくれたのう。下町区がこんなに安全になったのは、久しぶりじゃ」
