第5章
暗流クラブ――現在の佐藤勇護衛社の本部に戻ると、一人のメンバーが慌てて駆け寄ってきた。
「社長、大変です! 佐藤勇と佐藤勇が喧嘩を……」
私は一瞬呆気に取られたが、すぐに状況を理解した。
「案内して」
クラブのホールでは、二人の男が取っ組み合いの喧嘩をしており、周りの者たちは困惑した表情でそれを見ている。
「どっちが佐藤勇なの?」
「どっちもです!」
「じゃあ、どっちを助ければいいのよ?」
私は手を叩いて喧嘩を制止させた。
「やめなさい!」
二人はすぐに離れたが、まだ互いを睨みつけている。
「俺が佐藤勇だ!」と一人が言った。
「俺こそが佐藤勇だ!」ともう一人が言い返す。
ここで私は深刻な問題に気づいた――クラブには『佐藤勇』という名前の人間が多すぎて、このままでは大混乱を引き起こしてしまう。
「安奈、この名前の問題、解決しないとね」と私は小声で安奈に言った。
その夜、私と安奈は改名させられた『佐藤勇』たちを全員集めた。ざっと二十人以上はいる。
「今日から、みんなには新しいあだ名をつけます」私は宣言した。
「それぞれの特徴や能力に応じて、一人一人にコードネームを割り振るわ」
私は渡辺拓也を指差した。
「あなたは『クズ佐藤勇』よ」
渡辺拓也は顔色が変わった、反論する勇気すらなかった。彼の彼女は『女佐藤勇』と名付けられた。
坂本龍は『電流佐藤勇』と命名された。彼はフンと鼻を鳴らし、明らかにその名前に不満な様子だ。
「みんな自分のコードネームを覚えておいてね。これから護衛社の中では、本名じゃなくてコードネームで呼び合うこと!」
私はそう言い終えると、パンと手を叩いて解散を促した。
安奈が近寄ってきて小声で囁く。
「藍ちゃん、頭いい〜。これならもうごっちゃにならないね〜」
私が返事をしようとしたその時、一人のメンバーが慌てて駆け込んできた。
「社長! ぶっ潰しに来やがった!」
私は眉をひそめた。
「もっと礼儀正しくね。私たちは正規の護衛社よ。殴り合いりじゃなくて、企業間交流って言うの」
私はメンバーについてクラブの入り口へ向かうと、そこには黒と白の服をそれぞれ着た二人の男が、険しい表情で立っていた。
彼らから放たれる気迫に、周りの護衛社メンバーは誰も近づこうとしない。
「おいおい、随分とみすぼらしい場所だな」と白い服の男が言った。
「これが噂の『佐藤勇護衛社』か?」
黒い服の男は冷笑する。
「まともな看板の一つもないようだがな」
「あらら、本当に面倒を起こしに来たみたいね」私はそう呟き、目を細めてこの招かれざる客たちを観察した。
「ここの社長は誰だ?」
黒い服の男が突然問いかけ、その場にいる全員に視線を走らせた。
護衛社のメンバーたちは示し合わせたかのように一歩下がり、私一人だけがその場に取り残された。
二人は私一人だけが前に出たのを見て、最初はきょとんとしていたが、やがて大げさな笑い声を上げた。
「お前? 女がか? 笑わせるな」
白い服の男は腹を抱えて笑い転げている。
黒い服の男は他の男性メンバーたちの方を向いた。
「お前ら男のくせに、女一人の下で働くとはな。少しは骨のある奴はいないのか?」
私が言い返そうとした時、あの背の高いメンバーがそっと私のそばに寄り、小声で告げた。
「社長、あの二人の超能力は、一人が水の操作、もう一人が炎の制御です。どちらも厄介ですよ」
「大丈夫」
私は表面上は平然と答えつつ、内心では必死に対策を考えていた。。
安奈も心配そうに近寄ってくる。
「安奈ちゃん、あの人たちに近づけないかも。近づいたら丸焦げにされちゃうよ」
「大丈夫」
私はもう一度繰り返した。
「誰の前でカッコつけてるのよ!」
安奈はぷうっと頬を膨らませて私を睨んだ。
「安奈ちゃんはすごく心配してるんだからね!」
私は振り向いて、安奈にウィンクしてみせる。
「今の私には二十種類以上の超能力があるんだから。これくらいのこと、どうにでもなるわ」
「ほう? 随分な自信じゃないか」
黒い服の男が私たちの会話を遮った。
「なら、その能力とやらを見せてもらおうか!」
