第272章

大平愛子は背後から俺を突き飛ばすように押し、「いい加減にして。ここまで来たのよ、先へ進みましょう」と急かした。

 俺は大平愛子を振り返り、少し心配そうな口調で言った。

「よく考えろよ。道のりは長いし、雪は滑る。うっかり転んで骨折でもしたら、俺は面倒見きれないぜ」

 大平愛子は俺を睨みつけ、不満げに応じる。

「馬鹿なこと言ってないで、早く行くわよ」

 そう言うと、大平愛子は身に纏った毛皮のマントをきつく引き寄せ、率先して下流の干潟へと歩き出した。

 本田安奈もそのすぐ後に続き、俺に声をかける。

「おじさん、行きましょ」

 本田安奈に振り返る様子がないのを見て、俺も彼女たちの足跡...

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