第597章

伊藤陸斗の目に走った恐怖の色を見た瞬間、きょう呼び出した甲斐はあったと確信した。

 半歩、間を詰める。足もとで折れたもみじの枝が、月光を受けて青白く光った。

「伊藤陸斗」

 精神力を乗せた声が震え、彼のマントの下で鎧がカチンと鳴る。

「おれがおまえの矢筒に、伊藤拓巳用の麻痺毒を隠してあるの、気づいてないとでも思ったか?」

 彼がビクリと後ろへ跳ねた。手のひらから火打ち石が滑り落ちる。

 背後で、途中から叩き折られた三本のもみじが、どしゃあっと音を立てて倒れ込んだ。切り口から立ちのぼる樹液の霧の向こう、彼の瞳孔に、おれの指先に集まった銀の線が映っている――骨でできた矢ごと粉砕できる...

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