第639章 優しい夜

喉がごくりと二度、大きく動いた。焼けた鉄に触れたみたいに視線を慌ててそらす。……のに、どうしてもベッドの上の姿を盗み見てしまう。

本田安奈のシルクのネグリジェが、月明かりにほのかに光っていた。舷窓から差し込む淡い光が、鎖骨のあたりに艶めかしい影を刻んでいる。

おれは胸のざわつきを押さえ込むように、横にあった薄いブランケットを引き寄せ、やや上ずった声で言った。

「ふざけんなよ、自分の部屋で寝ろって」

「やだ」

本田安奈がぱっと正座になる。さらりと落ちた髪の隙間から、潤んだ瞳が恨めしそうにこちらを見上げてくる。その動きにつれてネグリジェの胸元が揺れ、ちらちらと覗く肌は真珠みたいにつやや...

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