第684章 甘い森

赤ワインが胃の底で熱い波に変わり、頬はじりじりと灼ける。吐く息まで、ほの甘い酔いに絡め取られていた。

本田安奈の手が、そっとおれの指に絡む。指先はひんやりしているのに、逃がさない力だけは容赦がない。まるで秘密の渦へ引きずり込むみたいに。

彫刻の施された長廊下を抜けるとき、彼女のスカートの裾がふくらはぎを撫でた。かすかなシダーの香りが赤ワインの芳醇さと混ざり、夜の底で甘い毒へと熟していく。

林の月光は葉に濾され、斑に散った銀の欠片。次の瞬間、本田安奈がくるりと身を翻し、おれの背をざらついた幹へ押しつけた。

伏せた睫毛が目元に蝶の羽みたいな影を落とし、琥珀色の瞳が暗がりで潤んで光る。酒に...

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