第2章

私は森田誠のソファで、落ち着かない一夜を過ごした。昨夜の今井綾香との対決を、何度も頭の中で再生していた。彼女の得意げな顔、計算された残酷さ、そして森田誠の部屋を――彼自身をも――我が物とするかのように闊歩する姿。

朝日がブラインドの隙間から鋭く差し込んできた時、寝室の方から彼女の声が聞こえた。

「おはよう!」

スターバックスのトレーと九十九本の赤い薔薇を器用に抱えながら、彼女は声を張り上げた。

「あなたの大好物のブルーベリーマフィン、持ってきたわ。昨夜は……ストレスがすごかったでしょうから、何か癒やしになるものが必要かと思って」

彼女の視線はすぐに私を捉え、その瞳は意地の悪い満足感にきらめいていた。昨夜の口論は、彼女を満足させるどころか、さらに楽しませてしまったらしい。

「よく眠れたかしら、西川凜音さん」と彼女は猫なで声で言った。

「ソファ、とっても……心地よさそうだったもの」

私はソファから、キッチンカウンターのそばで硬直している森田誠に彼女が駆け寄るのを見ていた。今井綾香は薄手のトレーニングウェア姿で、大げさなくらいにはしゃいでいる。対する森田誠は、明らかに居心地が悪そうだった。

「綾香、こんなことしなくてもいいのに――」

「当たり前じゃない! 昨日あんなに動揺してたあなたを見たら、あなたの人生には素敵なことがたくさんあるって思い出させてあげたくなったの」

彼女はすぐに彼の襟を直すなど、甲斐甲斐しく世話を焼き始めた。

「献身的な彼女なら、そうするものでしょう?」

私をまっすぐに見ながら「献身的」という言葉を強調したことで、彼女のメッセージは痛いほど明確に伝わってきた。

「それに、今夜は高級レストランを予約しておいたわ」

彼女は刺すような笑みを私に向けた。

「ごめんなさいね、西川さん。カップル限定なの。お店にも……それなりの基準ってもんがあるから」

森田誠は奥歯を噛み締めた。だが、何も言い返すことなく、黙って私に淹れたてのコーヒーを注ぎ、子供の頃の私の好みに合わせてクリームを足してくれた。

今井綾香の笑みは一層深くなったが、その瞳は氷のように冷たかった。

「誠さんって本当に気が利くのね」と、彼女は彼の背中に体を押し付け、マフィンを一口食べさせながら猫なで声で言った。

「誰にでもお世話してあげるんだから」

私は、戦うことを諦めた男特有の諦観を浮かべてこの茶番に耐える森田誠を見ていた。その目に浮かぶ屈辱の色に、もう少しで同情してしまいそうになる。

あくまで、もう少しで、というところだった。

「そろそろ今夜の準備をしなくちゃ」

今井綾香が宣言した。

「男の人をどう扱えばいいか、わかっている人間もいるのよ」

彼女は森田誠に強引にキスをすると、満足感を隠そうともせずに部屋を出て行った。

その後に訪れた静寂は、重苦しく、気まずいものだった。

「くそっ……」

森田誠はカウンターにだらしなく凭れかかりながら呟いた。

「すまない、あんなものを見せてしまって」

「何のこと? あんたを愛してくれる彼女が、かいがいしくお世話してくれてたじゃない」

彼はこめかみを押さえた。

「凜音、あの裁判のことなんだ……俺が君のために証言できなかった、その理由なんだが……」

「できなかった? それとも、しなかった?」

「福田家は、俺が奴らの意に背けばどうなるか、はっきりと示してきたんだ」

彼の声はひび割れていた。

「俺のキャリアだけじゃない――母さんの医療費の借金のことまで知っていた。口を閉ざせば、綾香の父親がそれを帳消しにしてやると……そう持ちかけてきたんだ」

「それで、金のために私を売ったのね」

「違う! 奴らに逆らえば、君の控訴のチャンスは完全に潰される、そう言われたんだ。協力することこそ、少しでも軽い刑になる唯一の道だと、そう説得されて……」

彼は必死の形相で私を見つめた。

「君を守っているつもりだったんだ」

「私が犯してもいない罪に対する、軽い刑ね」

彼の顔から血の気が引いた。

「わかってる。だから今、綾香と一緒にいるんだ――本当の証拠を見つけるために、あいつらに近づく必要があるからだ」

私はサイドテーブルに置かれた彼のお母さんの写真に目をやった。毎週日曜日に彼のためにパンケーキを焼き、私のことも本当の娘のように可愛がってくれた、あの人だ。

「お母さんなら、あなたにもっと多くを期待したでしょうね」

「母さんが……約束させたんだ」

森田誠の声は震え、途切れ途切れになった。

「死ぬ間際に、いつでも君の面倒を見るようにって、そう誓わせたんだ」

彼の約束という言葉に、記憶が洪水のように押し寄せてきた。古い本の黴臭い匂いや、何年も前の囁き声が聞こえてくるようだ。

「こんなの、できない」

私は、象形文字にしか見えない数式を睨みつけながら呻いた。

「私、数学なんて向いてない。馬鹿すぎるんだ」

私たちは学校の図書館の隅で、古い本の匂いと十代特有の切迫感に包まれながら、身を寄せ合っていた。代数で落第すれば、一部免除されていた奨学金を失うことになる。私は泣き出す寸前だった。

「馬鹿じゃない」

森田誠はきっぱりと言った。

「君は俺が知ってる中で一番頭がいい。ただ、考え方が違うだけだ」

彼は椅子をぐっと引き寄せ、根気よく、一問一問解説してくれた。

「ほらな? できたじゃないか。自分を信じさえすればよかったんだ」

顔を上げると、彼は私のことを見つめていた。その眼差しに、十五歳の私の心は高鳴った。

「あなたのおかげで合格できた」

私は、無理やり意識を現在に引き戻しながら言った。

「あの学期は、二人そろって優等生名簿に載ったわね」

「君が優秀だったからだよ。ただ、信じてくれる誰かが必要だっただけだ」

彼の言葉が、別の、もっと痛みを伴う記憶の引き金になった。

「誠、こっちに来なさい」

夕食の席にまた私がいるのを見て、森田奥様が台所から呼んだ。

彼女は彼を脇に引き寄せたが、その優しくも毅然とした声は私にも聞こえた。

「あの子には、他に誰もいないのよ」

森田奥様は、ちらりと私を見てから、息子に向き直って静かに言った。

「凜音ちゃんは、大抵の大人よりも辛い経験をしてきたんだから」

彼女は森田誠の肩に両手を置いた。

「誠、あの子のこと、大切に思ってるんでしょう? だったら、わかっておかなければならないことがあるわ――本当の男っていうのはね、自分にとって大切な人を守るものなのよ」

「そしてあなたは、私を刑務所に送った」

彼の頬を涙が伝い始めた。

「仕方がなかったんだ。証拠は圧倒的で、それに――」

「証拠は捏造されたものだった」

「それは今ではわかってる」

彼は身を乗り出し、必死に訴えた。

「凜音、この五年間、ずっと調査してきた。今井綾香がどうやったのか、見当はついてる――促進剤の痕跡を仕込み、目撃者を誘導したんだ。でも、確実な証拠固めには、もう少し時間が必要なんだ」

私は彼の顔をじっと見つめた。

「なぜ、あなたを信じなきゃいけないの?」

「これを正したいんだ」

彼の声は震えていた。

「君にそれだけの償いをしなければならない。母さんにも、それだけの償いをしなければ」

私たちの間の空間を横切って、彼の手が震えながら伸びてきた。

「俺に償わせてくれ、凜音。何が本当に起きたのか、俺に証明させてくれ」

私の手に重ねられた彼の手を見下ろす。柔らかく、暴力の痕跡もない、けれど、数えきれないほどの勉強会で私の手を握ってくれたのと同じ手だった。

「わかった」と私は静かに言った。

彼の目に希望の光が灯った。

「本当か?」

「許すわ、誠。そして……」

私はわざと声を詰まらせた。

「今のあなたは、正しいことをしようとしてるって信じたい」

彼は、五年分の後悔をすべて込めた、必死の抱擁で私を包んだ。腕が解かれた時、彼は泣いていた。

「彼女とは別れる」と彼は囁いた。

「今夜、今井綾香に別れを告げて――」

「だめ」

私は彼自身の唇に指を押し当てた。

「まだよ。彼女のそばにいてほしいの。証拠を集めて。私のために、できる?」

「でも、あいつと一緒にいるのは拷問だ。俺は――」

「お願い、誠。私たちのために。私たちの未来のために」

彼は、しぶしぶといった様子で頷いた。

「君のためなら、何でもする」

私は微笑んだ。彼が見たいと望むもの――許し、希望、そしてことによると愛さえも――を、彼に見せてやるために。

この愚かで、哀れな馬鹿。必死の安堵に顔を輝かせる彼を見つめる。これから何が起こるのか、何もわかっていない。

でも、その前に。今井綾香が隠したすべてを、彼に手に入れさせる必要があった。汚い秘密のすべてを、証拠の一片残らず。

そして、二人まとめて破滅させてやる。

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