第3章
今井綾香の復讐は、思ったよりも早かった。
あの朝から三日後、彼女からメッセージが届いた。
『川辺の旧工場で会いましょう。午後二時。一人で来なさい。さもないと、森田誠がひどい目に遭うわ』
笑えるほど見え透いていたが、その単刀直入さには感心せざるを得ない。ようやく化けの皮を脱ぐ気になったらしい。
望むところよ。
廃工場は彼女の目的にはうってつけの場所だった。人里離れ、朽ちかけていて、「事故」を装う機会はいくらでもある。私を川に突き落とし、罪悪感と絶望から飛び降りたとでも主張するつもりなのだろう。
可哀想な今井綾香。自分がまんまと私の罠に嵌められようとしていることなど、知る由もなかった。
私は彼女のメッセージを森田誠に転送し、短いメモを添えた。
『彼女、ついに動いたわ。三十分ちょうだい。そしたら私を探しに来て』
廃工場は、灰色のＤ市の空を背景に、腐りかけた骸骨のようにそびえ立っていた。緩やかに死に向かうこの街の、また一つの犠牲者。今井綾香のくだらない茶番劇にはおあつらえ向きの舞台だった。
彼女は三階で待っていた。割れた窓を背に、その姿は影になっている。殺人を企てるときでさえ、全身ブランド品。性分というものは、そう簡単には抜けないらしい。
「あらあら」
私が近づくと、彼女は猫なで声で言った。
「前科者さんが、本当に来てくれたのね」
「来なければ森田誠を傷つけると言ったから」
「まさか」
今井綾香は笑った。ガラスが割れるような甲高い声だった。
「私が、あんな惨めな負け犬のことなんか気にするわけないじゃない。彼はただの、便利な道具よ」
私は顔に驚きを浮かべてみせた。
「彼を愛してないの？」
「愛してる？」
彼女は鼻で笑った。
「森田誠なんて、運が良かっただけの成り上がりの男にすぎないわ。検察庁の内部に誰か必要だったの。そして彼は、利用価値があるくらい必死だった」
よし。その自白は、後で使うために記憶に留めておいた。
「じゃあ、どうして彼と？」
今井綾香の笑みが、捕食者のそれへと変わった。
「だって、あなたを壊せるじゃない？あなたじゃなくて、私を選ぶのを見るのは」
彼女は血の匂いを嗅ぎつけた鮫のように、私の周りを回り始めた。
「それに、検察庁に内通者が必要だったのよ。彼は利用できるくらいに愚かだったしね」
「何が最高だったか教えてあげる。あなたが手錠をかけられて連行されるのを、福田大輔が私を抱きしめている隣で見ることよ。あなたの哀れな友達が、刑務所で朽ち果てていくのを見ることなの」
「どうしてそんなに私を憎むの？」
私は静かに尋ねた。
「あなたに何もしたことないのに」
「あんたが存在したからよ」
今井綾香は唸るように言った。
「あんたは周りの皆に、自分が価値ある人間だと思い込ませた。あんな掃き溜めみたいな女のために、完璧だった私の兄さんまで全てを捨てたのよ」
彼女の仮面は今や完全に剥がれ落ち、その下に隠された歪んだ本性が露わになっていた。
「それに森田誠は私のものになるはずだった。なのに、あいつときたら、福田大輔の食べ残しにばかり夢中だったんだから」
私は一歩後ろに下がり、かつて窓があったぽっかりと開いた穴の方へ向かった。
「今井綾香、怖いわ」
「いい気味だわ」
彼女はバッグから何かを取り出した――透明な液体で満たされた注射器だった。
「ヘロインよ。馬でも殺せるほどの量。川であなたの死体が見つかれば、哀れな前科者は生活に耐えられなかったんだって、誰もがそう思うでしょうね」
彼女は私の恐怖を味わうかのように、ゆっくりと距離を詰めてきた。
「注射痕、血流から検出される成分。ただの悲劇的な薬物中毒よ」
「お願い」
私は囁きながら、さらに縁へと後ずさった。
「消えるから。二度とあなたの前に現れないから」
「手遅れよ」
今井綾香は注射器を手に、飛びかかってきた。
私はよろめいて後ろに下がり、緩んだ床板に足を取られて悲鳴を上げた。私が縁でふらつくのを見て、今井綾香の目が勝利の輝きを宿した。
「さようなら、西川凜音」
彼女は力いっぱい私を突き飛ばした。
私は、まさに計画通りに落下した。そして二階下の非常階段のはしごを掴んだ。衝撃は凄まじかったが、致命傷には至らない。頭上では、今井綾香の笑い声ががらんとした建物に響き渡っていた。
「あら、大変」
彼女が下に向かって叫んだ。
「あの薬物中毒者は結局、禁断症状に耐えられなかったみたいね」
私は錆びついた踊り場でじっと横たわり、死んだふりをしながら助けが到着するのを待った。
最初に聞こえてきたのは森田誠の声だった。
「西川凜音！ 西川凜音！」
続いて、階段を駆け上がってくる足音がした。
「ああ、メッセージを見てくれたのね、よかったわ」
頭上から、今井綾香の声がはっきりと聞こえてきた。
「私、彼女を説得しようとしたの。でも、完全にヒステリーを起こしていて。それで、飛び降りてしまったの」
「彼女はどこだ？」
森田誠の声は、パニックで張り裂けんばかりだった。
「落ちたの。本当にごめんなさい、森田誠。助けようとしたんだけど、でも――」
「嘘をつくな」
森田誠の声に宿る冷たい確信に、私は思わず笑みを浮かべた。壊れかけた副検事さんも、ようやく背骨ができたらしい。
「なんですって？」
今井綾香の驚きが声に表れていた。
「嘘をついていると言ったんだ。西川凜音が君のテキストメッセージを俺に送ってきたんだよ、このクソ女」
「そんなはずないわ。私はそんなこと――」
「『一人で来なさい。さもないと森田誠がひどい目に遭うわ』」
彼は引用した。
「何か思い当たる節は？」
一瞬の沈黙が流れた。そして、今井綾香の声は毒を帯びたものに変わった。
「だから何だっていうの？ 彼女は自業自得よ。あいつらは皆、当然の報いを受けただけ」
「皆？」
今井綾香の笑いは、今や苦々しいものになっていた。
「あら、森田誠。あなた、本当に私が思っていた通りのお人よしなのね」
「西川凜音から聞いた。お前はあの夜、そこにいたと。ビルが燃えるのを見ていたと」
「だから何よ？」
彼女の声は自己防衛的に高くなった。
「彼女は言っていた。君は笑っていたと。あいつらをゴミだと呼んだと」
森田誠の声は、より強く、自信に満ちてきていた。
「彼女は言っていた。君は……満足げに見えたと」
「満足げ？」
今井綾香の冷静さはひび割れ始めていた。
「最高に気持ちよかったわよ！」
「なぜだ？ あの人たちが、君に何をしたっていうんだ？」
「存在したからよ！」
彼女は絶叫した。
「あのビルにいた十二人のゴミどもが。福田大輔のいわゆる恋人だった、あの哀れな婆さんが泣きついてきた女が。あの火事の罠にいたゴキブリ一匹残らず！」
彼女の笑いは狂気を帯びてきた。
「真実を知りたい？ 森田誠。あのビルに火をつけたのは、私自身よ。中にいる害虫どもと一緒にあのビルが燃え落ちるのを見ていたわ。そしてそれは、美しかった」
私は目を閉じ、森田誠が息を呑む音を味わった。五年だ。私以外の誰かが真実を語るのを、ずっと待っていた。
「お前は狂ってる」
森田誠が呟いた。
「欲しいものを手に入れ、脅かすものを破壊するの。福田大輔は最初、私のものだった――私の兄、私の守護者、私の全て。そしたらあの女が現れて、お涙頂戴の作り話と偽りの純真さで彼の心を毒したのよ」
「今井綾香、君には助けが必要だ――」
「何もいらないわ！」
彼女の声は鞭のようにしなった。
「あんたみたいな、私の土俵で遊べると思ってる底辺の雑魚からの助けなんかなおさらね」
もみ合う音が聞こえ、続いて今井綾香の叫び声が響いた。
「私に触らないで！」
私の出番だ。
私は大げさに足を引きずり、脇腹を押さえながら、三階の床へと這い上がった。私を見た二人は凍りついた――森田誠は安堵の表情を浮かべ、今井綾香は純粋な怒りを滲ませていた。
「あんた」
彼女はシューッと音を立てて言った。
「死んだはずじゃ」
「がっかりした？」
私は怪我を装い、息を切らしながら言った。
「あなたの完璧な殺人を台無しにしてごめんなさいね」
森田誠が私のそばに駆け寄り、優しい手つきで怪我がないか確かめた。
「なんてことだ、西川凜音。大丈夫か？ 病院に行かないと」
「大丈夫」
私は彼の温もりに身を寄せながら言った。
「ただの打撲よ」
今井綾香はむき出しの憎悪で私たちを見ていた。
「これで終わりじゃないわ」
「ああ、終わりだ」
森田誠は携帯電話を取り出した。
「警察を呼ぶ。今井綾香、君を殺人未遂、放火、そして十二件の殺人で逮捕する」
「彼らが信じると思う？」
今井綾香は笑ったが、その声にはヒステリーが混じり始めていた。
「私は今井綾香よ。あなたは無価値。彼女も無価値。私の言葉より、あんたたちの言葉を誰かが選ぶとでも思ってるの？」
森田誠の笑みは、冬のように冷たかった。
「俺がここに来てからずっと録音しているこの記録なら、信じるかもしれないな」
今井綾香の顔が真っ白になった。
「何の録音よ？」
彼は携帯電話を掲げた。録音アプリがはっきりと見えた。
「一言一言だ、今井綾香。火事についての全ての自白、西川凜音を陥れたことについての全て、今日彼女を殺そうとしたことについての全てだ」
私が彼女を知ってから初めて、今井綾香は心から怯えているように見えた。
「やめて」
彼女は囁いた。
「私にそんなことできないはずよ」
「見てろ」
森田誠が一一〇番に電話する間、私は今井綾香と目を合わせ、微笑んだ。彼女はその微笑みの中に何かを見て、一歩後ずさった。
「これは、始まりにすぎない」
私は声を出さずに唇を動かした。
遠くでサイレンが鳴り響き始めると、彼女の怒りの絶叫が、がらんとした廃工場にこだました。
第一段階、完了。さて、次は福田大輔に会いに行く時間だ。
