第4話
私は携帯電話を取り出し、弁護士をしている親戚に電話をかけた。
「幸子、お父さんがなくなったばかりなのに、どうして離婚しようなんて?」
電話の向こうから、親戚の心配そうな声が聞こえてきた。
私は少し声を詰まらせ、一瞬、何と言っていいかわからなくなった。
「ちょっと疲れたの」
私の言葉に込められたごまかしを察したのか、親戚は事情を悟ったようだった。
だが、彼女もこれ以上は詮索できなかった。
結局、声を張り上げて、形だけ私を諭すように言った。
「夫婦が仲良く暮らせることこそが何より大切よ。もし、原則に関わるような深刻な対立がないのなら、よく考えてから離婚したほうがいいわ」
彼女の忠告は理解できた。
何しろ親戚や友人たちの目には、木尾翔太は私の夫として完璧に映っているのだから。
彼は親戚たちの目には立派な医師として映るだけでなく、私の父の主治医でもある。
結婚当時、父に跪いて「一生愛します」と誓ったあの行動は、まさに華々しいものだった。
しかし、あの華やかさが今や跡形もなく消え去ってしまったことを知っているのは、私だけだ。
今の片思いのような付き合いは、心身ともに疲れ果ててしまった。
もう追いかける側にはなりたくない。
二人でいて心身ともに疲弊するくらいなら、一人で気ままに生きるほうがいい。
この言葉は、彼に電話がつながらなかったその瞬間から、私は理解していた。
「もう決めたわ。離婚する」
父は逝ってしまった。私を一番愛してくれた人が去ってしまった。
私も、自分の支えになるべきだ。もう誰にも頼らない。
父の葬儀の翌日、木尾翔太が帰宅した。
彼が車を停める音が聞こえると、私は無意識にバルコニーへ出た。
バルコニーから、彼が車から降りてくるのが見えた。
しかし、彼だけではなかった。
彼のすぐ後ろには佐藤茜がいて、木尾翔太は紳士的に彼女を助手席から降ろしていた。
二人の親密な様子を見て、私の心にはもはや何の動揺もなかった。
