第5章

私は身を乗り出した。声を低く、落ち着かせて言った。

「間違ってるわ」と私は告げた。「何もかもね」

「それなら、真実を話して」

私は息を吸い込んだ。その空気を胸の奥に沈めてから、口を開いた。

「一つだけ、あなたの言う通りよ」私は言った。「母の死は、事故なんかじゃなかった」

良子のペンが止まった。彼女は私の目を見つめたまま、次の言葉を待っていた。

「私は十歳だった」と私は続けた。「夏のことよ。暑かったわ。家の中に閉じこもっていたくなるような暑さ。でも母さんは、暑さが厳しくなる前の早朝に乗馬をするのが好きだったの」

記憶は鮮明だった。まるで昨日のことのように鮮やかだった。

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