第6章

「私は十六歳だった」私は言った。「高校二年生だ。不眠症でね。今も変わらない。だから夜になると散歩に出歩いていたんだ。家の敷地内を回ったり、時には町まで足を延ばすこともあった」

良子はメモを取り続けながら、小さく頷いた。

「ある晩、町の外れにある古いガソリンスタンドまで歩いた。もう何年も前に廃業した場所だ」

私はその場所を思い出した。錆びついたシャッター。アスファルトの亀裂から伸び放題になった雑草。

「そこで彼女を見たんだ。洋子を」

良子が顔を上げた。「彼女、そこで何を?」

「誰かと会ってたのさ。男だ」

私はその言葉を飲み込ませるように、少し間を置いた。

「背が高く、荒...

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