第9章

良子との会話から三日後、小野修が牧場に現れた。

私は納屋にいて、家畜房の汚物を掃除していた。頭を使わずに済む単調な作業だ。物思いにふけるには丁度いい。何も考えないようにするためにも、丁度いい。

姿を見るより先に、車の音が聞こえた。低い地響きのような音。荒々しいエンジン音。この辺りの住人のものではない種類の音だ。

私はピッチフォークを置いて外に出た。

小野修は車の脇に立っていた。変わらない丸刈りの頭。変わらない険しい目つき。だが、記憶にある姿より老けて見えた。疲れているようだ。刑務所暮らしが彼から何かを奪い去り、それは二度と戻らないのだと感じさせた。

「神崎さん」と彼は言っ...

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