第57章 心が折れる

「村田隆さんのもとに戻ってほしい」

杉本健一は彼の目的を口にしたが、私は頭を横に振った。

「もう関わる気はないわ。用がなければ、帰って」

杉本健一は私をじっくりと観察し、本当に興味がないと確信すると、少し落胆したため息をついた。

「わかりました、安野さん。先ほどの話は無かったことに」

彼は契約書を私の前に置き、小切手も一枚取り出した。

「これは名義変更の契約書と、1億円の小切手です。残りの人生を十分楽しく過ごせる額でしょう。サインをして、会社に退職届を出すだけでいいんです」

目の前のものを見て、私は嘲るように笑った。これを受け取れば、村田隆は私が最初から彼のお金目当てだったと思...

ログインして続きを読む