第7章

 都心の繁華街。桐生グループ本社、最上階のペントハウスフロア。

 チン。

 専用エレベーターの黒と金の扉が、息をひそめた囁きみたいに音もなく開いた。

 私はズボンなんて履いていなかった。昨夜、蒼真が置いていったオーバーサイズの白いシャツだけを身につけ、その上からトレンチコートを肩に羽織っただけ。赤いソールのルブタンが大理石の床を叩く鋭い音が、この権力の巣の静寂を容赦なく切り裂いた。

「奥様? そんな、勝手に――」

 秘書室長が遮ろうとしたが、視線が私の鎖骨に刻まれた暗く暴力的な痕に吸い寄せられる。残りの言葉は、恐慌のあまり喉の奥で潰れた。

 私は誰も相手にせず、廊下の突き当たりま...

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