第5章

佐藤真実のオフィスは、櫻木湾を一望する角部屋だった。ガラスと鋼鉄でできたその空間は、これみよがしではない、確固たる成功を体現していた。

大学時代のルームメイトは、三十五歳にして法律事務所のパートナー弁護士になっていた。専門は、富裕層の離婚案件。これ以上ない適任者だ。

「南良県は、法律で公平な財産分与が定められているわ」

彼女はマホガニーのデスク越しに一枚のリストを滑らせながら言った。

「すべて記録して。財産状況、資産、それから親権に関わること、どんな些細なことでもいいから」

私は、かつて有機化学の期末試験を共に乗り越えた友の顔を見つめていた。今、彼女は私の結婚生活を解体する...

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