第4章

 4度目の妊娠だった。今回、彼らは私に堕胎を強要しなかった。だが――陽菜が事故に遭った。

 あの日、窓の外から突然、身の毛もよだつような悲鳴が響き渡った。

「火事だ! 礼拝堂が燃えているぞ!」

 屋敷の裏手が赤々と染まり、礼拝堂が猛烈な炎に包まれていた。

 40分後、ようやく火の手は収まった。

 しかし、小さな礼拝堂はすでに黒焦げの空っぽの殻と化していた。

 陽菜の遺体はすぐさま運び出された。

 颯人は重い沈黙を守っていた。美晴子は泣き崩れた。

「この子は……どうしてこんなことに……」

 貴は遠くから無表情でその焼死体を見つめていたが、その瞳にはわずかに苛立ちの色がよぎっていた。

 私はその場に立ち尽くし、丸く縮こまったその亡骸を見下ろしていた。劇的な吐き気が胃の底からせり上がってくる。身をかがめて何度もえずいたが、何も吐き出すことはできなかった。

 3ヶ月前――3度目の流産の3日後、私は衰弱しきった体でベッドに横たわっていた。

 両目を真っ赤に腫らした蓮が、ドアを押し開けて入ってきた。彼はベッドのそばまで来ると、床に崩れ落ちるように膝をついた。私の手をきつく握りしめ、喉を詰まらせる。

「知世、頼むから離婚しないでくれ……お願いだ……」

 私は無言を貫いた。

「全部俺のせいだ。俺が不甲斐ないばかりに、君にこんなつらい思いを……」

 彼の涙が、私の手の甲にぽたぽたと落ちる。

「もう一度だけチャンスをくれないか? 俺がすべて手配するから。ここを出て、東京に腰を据えて、また一からやり直そう……」

 私はその手を引き抜き、ひどく掠れた、冷え切った声で言い放った。

「やり直す? 蓮、私の子供は3人とも死んだのよ。どうやってあなたとやり直せるっていうの?」

 彼は呆然とした。頬に涙を伝わせたまま唇をわなわなと震わせ、もはや一言も発することができなかった。

 その夜、私は居間に呼び出された。家族全員が揃っていた。颯人が上座にどっしりと腰を下ろし、美晴子がその傍らに座っている。貴は窓辺に寄りかかり、そして陽菜は一番隅で車椅子に座ったままうつむいていた。両手をきつく握り合わせており、その指の関節は真っ白になっている。

 真っ先に歩み寄ってきたのは美晴子だった。彼女は目に涙を浮かべ、私の手を両手で包み込むように握る。

「知世さん、私たちが間違っていたわ……あなたにどれほどつらい思いをさせたか……」

 颯人は咳払いをして、珍しく家長としてのプライドを捨てた。

「これまでのこと――我々が愚かだった。君には理不尽な思いをさせたな。中島家は、これ以上君を無駄に苦しませるような真似はしない」

 普段は傲慢な貴でさえそばにやって来て、片膝をつき、私に一通の書類を差し出した。

「知世、これは会社の株式の3パーセントだ。母さん、父さん、それに蓮に代わって謝罪する」

 書類を受け取る私の指先は、微かに震えていた。中島グループの株式3パーセント――一般人が何回生まれ変わっても稼げないほどの莫大な富だ。

 部屋の隅にいる陽菜はうつむいたまま、微動だにしない。だが、その華奢な肩が小刻みに震えているのを、私は見逃さなかった。

 私は無理やり、皮肉な笑みを唇に浮かべた。彼らがどれだけ莫大な代償を払おうとも、私の3人の子供たちが生き返ることは決してないのだ。

 それからの数ヶ月間、私はまるで歩く屍だった。

 日中はよく噴水のそばに腰掛け、何時間も虚空を見つめて過ごした。使用人たちがヒソヒソとささやき合う。美晴子が時折、高価な栄養剤を運んでくるが、私はただ機械的に頷くだけだった。

 本当の地獄は、夜の帳が下りてから始まる。

 毎晩、屋敷全体が深い眠りにつく頃、赤ん坊の泣き声が聞こえてくるのだ。廊下の突き当たりから、窓の外の庭園から、あるいは壁の向こう側から。その声はか細く甲高く、猫の鳴き声に似ていながらも、さらに耳障りだった。

 両耳を塞ぎ、顔を枕に押し付ける。それでも泣き声はますます鮮明になり、どんどん近づいてくる。時折、ベッドのすぐそばや、枕の下から聞こえてくるような錯覚にさえ陥った。

「ママ……ママ……」

 私は跳ね起きる。部屋には誰もいない。冷や汗が寝間着をびっしょりと濡らし、心臓が胸を突き破らんばかりに早鐘を打っていた。

 幻聴だということは分かっている。あの子たちがもう死んでしまったことも。それでも抑えることができない――毎晩同じ時間に、同じ泣き声が、目覚まし時計のように正確に鳴り響くのだ。

 蓮は時折、私の動く気配で目を覚まし、寝ぼけ眼で尋ねてきた。

「また気分が悪いのか? 眠れないのか?」

 私は答えず、ただ横たわったまま暗闇の中の天井を見つめ続けた。

 彼は寝返りを打ち、こう呟いた。

「あまり考え込むな。しっかり休んで治すんだ」

 そしてすぐに、高い鼾をかき始めた。

 私は夜が明けるまで、ずっとその泣き声を聞き続けた。隣で眠る男は、私の苦痛などすべて無関係であるかのように、深い眠りに落ちている。

 そんな日々が続き、ある日。

 夕食の半ば、私はナイフとフォークを置き、まるで大したことなどないかのような、ひどく平板な声で告げた。

「妊娠したわ。4度目よ」

 ダイニングルーム全体が、死に絶えたような静寂に包まれた。

 カトラリーを持つ颯人の手がピタリと止まり、その鋭い視線が私の平らな下腹部を射抜く。美晴子の顔に浮かんでいた笑みも凍りつき、彼女は本能的に陽菜の方へ目を向けた。

 陽菜の全身がビクッと震え、手から滑り落ちたフォークがカチャリと皿に当たって高い音を立てる。

 長い、長い沈黙が続いた。

 やがて、美晴子が無理に笑顔を作って口を開いた。

「そ……それは素晴らしい知らせね。検査はもう受けたの? 結果はどうだった?」

 私はバッグの中から産婦人科の診断書を取り出し、テーブルの上に置いた。

 全員の視線が陽菜に集中する。これが中島家の暗黙の掟における最後の段階――この子を産むか否か、最終的な決定権は彼女に委ねられているのだ。

 陽菜は震える手を伸ばし、その診断書を手に取った。彼女の視線が、ある1行の文字に釘付けになる。紙の端を握りしめるその指は、血の気が失せて真っ白だった。

 焦燥感を煽る、果てしなく長い沈黙。

 ついに彼女は顔を上げ、颯人と美晴子を見た。

 そして、ほとんど気付かないほどのわずかな動きで、こくりと頷いた。

 死んだように虚ろなその瞳の奥で、一粒の涙がきらりと光る。

 美晴子が勢いよく立ち上がり、椅子が後ろに滑る音が響いた。彼女は私のそばに駆け寄り、その体をきつく抱きしめ、興奮に震える声で叫んだ。

「よくやったわ! あなたは中島家にとって最高に福を呼ぶ子よ!」

 颯人も何度も頷き、抑えきれない笑みを顔に浮かべて声を張り上げる。

「でかした! 中島家もようやくこの吉報に恵まれたぞ!」

 貴も立ち上がり、ワイングラスを掲げた。その目にはわざとらしい『兄弟愛』が満ち溢れている。

「さあ、この素晴らしい知らせに、皆で乾杯しようじゃないか」

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