第1章
西園寺の屋敷の地下牢は、血と死の悪臭が充満していた。
私は一滴の水も与えられないまま、ここで五日間も監禁されていた。鉄格子の外では、西園寺家の当主である麗奈の父親が、私に向かって罵声を浴びせていた。
「偉大なる神崎のお姫様だと? 修二の妻だと?」
「お前など、ただの哀れな生贄にすぎん! よくも私の娘を傷つけてくれたな。その代償、たっぷり払わせてやる!」
彼の合図とともに、鉄門が重々しい音を立てて開いた。
狂暴な唸り声を上げる犬の群れが、私を目掛けて真っ直ぐに突進してくる。
私は大きく膨らんだお腹を両腕で抱え込み、必死に我が子を守ろうとした。だが、遅かった――鋭い牙が、まるで紙を引き裂くように私の肉を食い破った。
私は最後の血を吐き出し、絶望的な苦痛の中で息絶えた。一つの死で、二つの命が理不尽に奪われたのだ。
死の淵で、私は左手を固く握りしめていた。犬たちにすでに何本かの指を噛みちぎられていたが、修二の結婚指輪をはめた薬指だけは、手のひらの内側に安全に隠し、無傷のまま守り抜いていた。
その指輪は、彼が私に誓った『永遠』の約束のはずだったのに。
死がすべての終わりだと思っていた。しかし、私の魂は無惨に引き裂かれた死骸から抜け落ち、神崎の屋敷へと漂い戻っていった。私の、帰るべき家へ。
だが、扉をすり抜けた瞬間に私の目に飛び込んできたのは、ベッドに身を預け、肩に真っ白な包帯を巻いた麗奈の姿だった。
そこは、両家の抗争の最中、完全な正当防衛で私が「うっかり」彼女をかすめてしまった傷跡だった。
そしてその枕元には、神崎家現当主である私の夫・修二が座り、スプーンですくったスープに優しく息を吹きかけて冷まし、彼女の口へと運んでいた。
「修二……」麗奈は伏し目がちに睫毛を揺らし、嘘くさい涙を絞り出した。
「やっぱり、恵梨香さんを連れ戻したほうがいいんじゃないかしら。西園寺家は決して手加減なんてしないわ。彼女が向こうで酷い目に遭っていないか心配で……。本当に、これはただの擦り傷よ。私のせいで彼女が身代わりになるなんて、あんまりだわ」
修二はスプーンを宙で止め、その瞳に微かな嫌悪を走らせた。
「あいつに君が同情してやる義理はない」彼は器を置き、麗奈をその腕に抱き寄せた。
「あいつは一生親父の威光にすがりつき、我が物顔で振る舞ってきた。底意地の悪い女だ。君みたいに優しくて純粋な子が、あんな女に関わるのは危険すぎる。今ここで痛い目を見せてやらなきゃ、あいつは永遠に自分の立場を弁えないんだ」
麗奈は彼の胸にすり寄り、その唇の端に得意げな笑みを浮かべた。だが、その声は反吐が出るほど弱々しいままだった。
「でも……もし彼女が、今回のことを恨んで私を傷つけたらどうしよう?」
「俺がいる限り、誰にも君を傷つけさせはしないさ」
私はそこを漂いながら、その茶番劇をただ見つめていた。笑いたかった。けれど、声は出なかった。
その時、バンッと乱暴に扉が開いた。神崎家のナンバーツーであり、かつて私の父の最も忠実な部下だった誠が、血相を変えて飛び込んできた。
彼は麗奈に一瞥もくれず、修二の前に片膝をついた。
「当主! どうかお願いします、奥様を連れ戻してください! 奥様は先代の残された大切なご令嬢ですぞ! 西園寺の連中は血も涙もない狂犬の集まりだ。今頃、奥様がどんな目に遭わされているか……!」
修二の表情が氷のように冷え込んだ。
「誠、言葉を慎め。神崎と西園寺は和平協定を結んだばかりだぞ。恵梨香は単なる嫉妬から故意に麗奈を撃ち、すべてをぶち壊そうとしたんだ。あいつは毒婦だ。少しばかり苦しめば、頭も冷えるだろう」
「しかし当主……!」誠の声が裏返った。
「あそこは死地ですぞ!」
「もういい」修二は苛立たしげに彼の言葉を遮った。
「あと数日、あの牢屋で反省させておけ。三日後になったら、誰かを迎えにやれ」
三日後?
その時、私はようやくすべてを悟った。
これは西園寺家の怒りや復讐などではなかったのだ。これは私の夫――十年前、私が一目惚れしたあの男が、彼の大切な麗奈のために、私をサンドバッグとして差し出すことを許可した結果だったのだ。
彼はまだ企み、黒幕を気取り、私が泣きついて戻ってくるのを待っているのだ。
けれど修二。あなたは二度と、恵梨香を取り戻すことはできない。
なぜなら、あなたが「痛い目を見せてやろう」と躍起になっているその妻は、今やただの腐れゆく死体なのだから。
