第161章 彼は人を待っている

永橋正彦が実家から電話を受けたのは、病院でカルテを整理している最中だった。

受話器越しの母の声には、隠しきれない落胆と、どこか気まずそうな響きが混じっている。

「正彦ね……あの……風見家のほう、婚約が解消になったの」

彼の手が、わずかに止まった。だが真っ先に脳裏をよぎったのは、江島結奈の「任せて」という確信めいた言葉だった。

――いったい、何をしたんだ。

あれほど厄介な話を、こんなにも手際よく片づけるなんて。

「……解消?」永橋正彦は、驚いたふりをする。

「ええ」母はため息をついた。「向こうでちょっと事情があったみたいで、詳しいことは言わなかったけど……でも、これでよかったのか...

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