第167章 彼ががやりたいようにやればいい

坂井良彦は小さくうなずいただけで、何も言わなかった。

坂井翔子がふっと笑う。

「加世ちゃん、いらっしゃい。座って」

須藤加世はソファに腰を下ろすと、書斎の中をさっと見回した。誰かを探すように。

――いない。

胸の奥がわずかに沈んだが、顔には出さない。

「坂井おじさま、坂井おばさま。今日はご挨拶に伺いました」加世は丁寧に言った。「この前、礼司さんが出張だって聞いて……まだお戻りじゃないんですか?」

礼司さん。

ずいぶん親しげな呼び方だ。

坂井翔子は湯呑みを手に取り、ゆっくり一口含んだ。

「そうね。まだしばらく戻らないわ」

「北嶺市に行ってるの」

須藤加世が一瞬、きょとん...

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