第177章 彼が私に隠れて北嶺市に来たのはあの女のためだったのか

彼女は、須藤加世の自尊心を傷つけないよう、慎重に言葉を選んでいた。

須藤加世は首を横に振る。

「……もう少し待つ」

土屋杏奈は小さく息を吐いた。

固く閉ざされた大扉を見つめながら、さっき警備員が口にした「お隣の江島さん」という言葉を思い出す。胸の奥に、ふっと羨望が差し込んだ。

江島結奈――運がいい。

坂井礼司の隣に住んでいる。それだけで、招待状がなくても入れる。

それに比べて自分はどうだ。

土屋杏奈。いちおう芸能人、それなりに名もある。なのに、ここで誰かの情けを待つしかない。

人と人は、比べたら終わりだ。

「杏奈」

須藤加世がふいに口を開いた。

「あの江島結奈って子、...

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