第59章 いや、彼女は死んでいない

そうだ……。

あの夜のことを、御堂斗真ははっきり覚えている。宴の喧騒のなか、御堂結奈がひとり、バルコニーの端に立っていた。月明かりに縁取られた横顔は、澄んでいて、やわらかくて、美しかった。

彼女は雲の上の令嬢。対して自分は、表に出せない隠し子――弟を支えるために存在する、都合のいい道具にすぎない。

御堂怜央は、何もかもが「最上」だった。

最高の教育。最高の生活。最高の人脈。……そして、界隈でいちばん美しいと噂される婚約者。

初めて目にした瞬間から、視線を外せなかった女。

そのあと、酒をかなり飲んだ。気づけば結奈が、いつの間にか自分の部屋に入ってきていた。

斗真は酔っていた。結奈...

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