第60章 前川家全体を彼女の道連れにする

電話の向こうが、数秒沈黙した。

やがて、江島昭二の声が返ってくる。驚きも、揺れも、波紋ひとつない平坦さ。

「……ああ、分かった。遺体はどうする? 江島家が表に出たほうがいいのか? 必要なら秘書を通してくれ。最近、忙しいんでな」

衝撃も、悲嘆も、死因を問う言葉すらない。

「父親」なら当然あるはずの情の起伏が、欠片もなかった。

まるで永橋正彦が告げたのは、たまたま通りすがりの他人が事故で死んだ――それだけの話みたいに。

永橋正彦はスマホを握り締めた。関節が白くなり、胸の奥から吐き気と憤りがせり上がる。

これが、結奈が十二年暮らした「家」。

これが、名ばかりの「父親」。

「……要...

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