第82章 彼女を安らかに眠らせよう

御堂斗真の声が、ふいに背後から落ちてきた。

「承夜。お前、『ウルフ』に……どれくらいいた?」

御堂承夜は一歩遅れてついてきた。声は凪いだまま――わざと、ほんのわずかだけ痛みを混ぜる。

「物心ついた頃から、ずっとです」

「そこは……どんな場所だった?」斗真は歩みを止めない。問いは軽く、雑談のついでみたいに。

承夜は数秒、沈黙した。言葉を選ぶように息を整え、それから、胸を締めつけるほど淡々と語り出す。

「陽の光はありません。いつも湿って冷たい壁。血と薬品と排泄物の臭いが混ざって、肌に張りつく。飯は酸っぱくなったドロみたいなものです。犬の餌以下」

「言うことを聞かない、あるいは『出来...

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