第89章 なぜ御堂斗真を突き落としたのか

夜がまだ白みきらないうちに、使用人が扉を叩いた。

「お嬢様、旦那様が書斎へお越しだと」

胸の奥がわずかに沈む。けれど顔には出さず、「わかった」とだけ静かに返して、起き上がると手早く身支度を整えた。

祖母はまだ眠っていた。年老いた手が布団の上にそっと置かれ、寝顔は穏やかだ。

江島結奈は枕元に立ち、しばらくその顔を見つめてから、身をかがめて布団の端をそっと整える。壊れやすい夢を驚かせないように――そんな慎重さで。

それから踵を返し、扉を押して廊下へ出た。

書斎は江島家本邸の東側。江島昭二の領分で、普段は打ち合わせでもない限り、誰も足を踏み入れない場所だ。

結奈が扉を開けると、昭二は...

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