第91章 薔薇とギター

それから彼女は口を開いた。声は驚くほど落ち着いている。

「怜央さん。今日、ちょっと具合が悪いの。迎えはほかの人に頼んで」

受話器の向こうが、すっと静まり返った。

御堂怜央は――彼女が断るなんて、たぶん一度も想像したことがない。

「結奈」もう一度、彼の声が落ちてくる。探るような、慎重な響きで。「どうした? 本当に体調が悪いのか? それとも……昨日のことで、まだ機嫌が悪い?」

昨日のこと。

江島結奈の口元が、冷えた弧を描く。

記者を連れて『浮気の現場』を押さえに来たことを言っているのか。それとも、そのあと廊下に置き去りにしたことを言っているのか。

「ううん」結奈は淡々と言った。「...

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