第96章 雪音、いい香りだね

江島結奈。

その名が胸の奥を何度も轢き潰す。骨に刻まれるほどの憎悪を伴って。

どうやって江島結奈が前川俊輔のことを知ったのか。なぜ、よりにもよってこのタイミングで口にしたのか。風見雪音にはわからない。

けれど、ひとつだけ確信があった。

今日を境に、自分と江島結奈のあいだに、薄っぺらい「平和」を保つ余地など残らない。

――なら、やってみればいい。

雪音は顔を上げた。そこにはもう、さっきまでの動揺は欠片もない。いつもの従順で愛らしい笑み。まるで何事もなかったかのように。

「結奈お姉ちゃん」

甘ったるい声で言う。

「さっきは私が悪かったの。気にしないでね。これからは気をつけるから...

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