第1章

 炎。魂を切り刻むような、凄絶な苦痛。

 私は弾かれたように目を見開いた。荒い息を吐き、冷や汗がスリップドレスにべったりと張り付いている。周囲には見慣れた黒曜石の壁。空気には、松とホワイトセージの濃厚な香りが立ち込めていた。

 私の喉を食い破る牙はない。嘘泣きの陰で勝ち誇ったように目を光らせるアイビーの姿もない。私を見殺しにして立ち去る、キャシアンの冷酷な背中もない。

 手首を見下ろす。ダークムーン群れの隷属の刻印は、跡形もなく消え去っていた。

 私は、生まれ変わったのだ。

 三年前の過去へ。ダークムーン群れのアルファ、キャシアンとの「番の儀式」が行われる、まさにその日へと。

 前の人生で、私は番の絆を神からの祝福だと信じていた。奔放な魔女としての本性を押し殺し、燃えるような赤髪を短く切り落とし、彼の完璧な「ルナ」になるために、息が詰まるほど窮屈な貞淑なドレスに身を包んだ。

 だが、その見返りは何だったか?

 息の詰まるような、終わりのない束縛。アイビーに対する、常軌を逸した贔屓。そしてついに群れが敵の奇襲を受けた時、彼は迷うことなくアイビーを庇い、私を敵対する狼たちの餌食にして見殺しにしたのだ。

 真実の愛とは、尊重と自由の上に成り立つもの。支配し、相手を作り変えることではない。

 それが、私が自らの命と引き換えに学んだ教訓だった。

 勢いよく扉が開いた。私の名ばかりの父親、高位魔術師マーカスが、背後にアイビーを付き従えて入ってきた。

 白いレースのドレスに身を包んだ彼女は、いかにもか弱そうに、赤く腫らした唇を噛んだ。「セレネ、本当にごめんなさい……。今日はあなたの大切な日だってわかっているの。でも、キャシアン様が、私にそばにいてほしいって……。私、あなたの邪魔をするつもりなんて、本当になかったのよ……」

「セレネ」言葉を遮ったマーカスは、眉間を寄せ、いつもの独裁者のような口調で言い放った。「アイビーは体が弱い。キャシアンの群れに行けば、より手厚い庇護を受けられるだろう。姉として、そして強大な魔力を持つ者として、お前は寛大な心を持つべきだ。今日は特別な客人として、アイビーをキャシアンの隣に立たせてやりなさい」

 私は二人をじっと見つめ、あまりの皮肉に呆れ果てた。

 前の人生では、この全く同じ要求に対して、私は取り乱して怒り狂った。そのせいでキャシアンから人前で「卑しくルナにふさわしくない女」と罵倒され、群れでの屈辱に満ちた日々の幕が開いたのだ。

 だが、今の私は叫ぶ代わりに静かに立ち上がった。燃え盛る炎のような赤い巻き髪が、露わになった肩へとこぼれ落ちる。

 私はクローゼットへ歩み寄り、胸元が深く開き、身体のラインにぴったりと沿う黒のレザードレスを取り出した。私が着る服の中で、キャシアンが最も嫌った一着だ。「ルナとしての慎みに欠ける」というのが彼の言い分だった。

「セレネ……?」私が着替える様子を見て、アイビーの瞳に不安の影がよぎる。

「彼が欲しいの?」私は振り返り、とびきり甘く、そして嘲るような微笑みを浮かべた。「いいわよ」

 マーカスが硬直した。「お前、今なんと……?」

「アイビーがそこまで手厚い庇護を求めているなら、『運命の番』の座を譲ってあげるって言ったの。彼なんてくれてやるわ」私はドレッサーへと優雅に歩み寄り、鮮烈な真紅のリップを唇に引いた。

「セレネ! 馬鹿げた戯言はやめろ!」マーカスが怒鳴り声を上げた。「これは魔女団とダークムーン群れとの政治的同盟なのだぞ! 番の絆は子供の遊びではない!」

「絆ですって? あんなもの、アルファが自らの暴走しがちな力を安定させるための道具にすぎないじゃない」私は鼻で笑った。「でも、勘違いしないでね。タダで譲ってあげるつもりはないわ」

 私はアイビーを真っ直ぐに見据え、彼女が被っていた偽りの仮面が剥がれ落ちる様を心の底から楽しんだ。「子供の頃から、お父様は魔女団の血を一滴も引いていない孤児の養女であるあなたに、何百万という大金を注ぎ込んで魔法のスクロールや希少な薬草を買い与えてきた。その間、実の娘である私はずっと冷や飯を食わされてきたのよ。今度はキャシアンが欲しいのね? ええ、構わないわ」私はすっと手を差し出した。「三千万ドル。それに西区にある古代のレイラインの交点に関する権利書。それを渡すなら、今日、公の場で番の絆を破棄してあげるわ」

「正気か!」マーカスは怒りに全身を震わせた。

「これほど頭が冴えていることはないわ」指先で深紅の炎を躍らせ、宙に浮かぶ羊皮紙を顕現させる。「『血の誓約』にサインして。これでもう後戻りはできない。今すぐサインするか、それともダークムーンのアルファが神聖な協定を破ろうとしていると評議会に報告されたいか? あの化石みたいな老人たちがどう動くか、楽しみね」

 アイビーは血の気を失い、パニックに陥ってマーカスを見遣った。

 ギリッと歯を食いしばり、彼は自らの血を滲ませた指先を羊皮紙に押し当てた。「いいだろう! だが、二度とキャシアンに関わらないと誓え!」

 血の誓約は目も眩むような深紅の光を放ち、私の掌へと吸い込まれていった。「交渉成立ね」

 私は二人に一瞥もくれることなく、大股で部屋を後にした。

「どこへ行く気だ?!」背後からマーカスの怒声が響く。

「生まれ変わりを祝いにね」

 私は前の人生でずっとガレージの奥に隠していた大型バイクに跨った。化け物のようなエンジンの咆哮が、静寂の夜を引き裂く。

 そのまま「クリムゾン・ムーン」へと直行する。そこは人外のクズどもが吹き溜まる、混沌とした中立地帯の地下の夜の社交場だ。

 足を踏み入れた瞬間、耳をつんざくヘヴィメタルの重低音が鼓膜を打ち据えた。フロアの空気は、熱気を含んだ汗と、人外特有の生々しい体臭が混ざり合った濃厚なカクテルのようだ。

 バーカウンターへと滑り込み、最も度数の高いアブサンをグラスで注文すると、一息に煽った。

 喉を焼く液体の炎が、私の血を沸騰させる。私は着込んでいた無骨なレザーのライダースジャケットを脱ぎ捨て、カウンターの上に無造作に放り投げた。

 残ったのは、あの胸元が深く開いたタイトなレザードレスだけ。身体の曲線が露わになり、まるで暗く危険な炎を纏っているかのようだ。

 ピンヒールを鳴らしてダンスフロアの中心へと進み出ると、私は目を閉じ、容赦なく響く重低音に身を委ねて激しく踊り狂った。

 燃え盛る炎のような赤髪が、鞭のように宙を舞う。鎖骨に滲んだ汗の雫が、ドレスの深い胸元の谷間へと伝い落ちていく。

 ここに慎み深さなどない。己を抑えつける理屈もない。ただ、あの地獄のような三年間ずっと抑圧されてきた魔女としての原始的な本能が、ついに解き放たれ、夜の闇を切り裂いているだけだ。

 私の周囲だけフロアの熱気が跳ね上がったかのように、近くにいる客たちの呼吸が目に見えて荒くなっていく。飢えた狼のような貪欲な視線が、私の腰のラインに釘付けになっていた。

 隠そうともしない欲情に目を濁らせ、喉仏を鳴らした大柄な流れ者の吸血鬼が、私の腰に手を回そうと腕を伸ばしてくる。

 私は彼に向けて小悪魔のような微笑みを返し、その広い肩に腕を回して流れに身を任せようとした――

 ドォォンッ!!

 スピーカーが耳障りなノイズを撒き散らし、狂騒の音楽が暴力的なほど唐突に断ち切られた。

 その一瞬後。背筋が凍るようなアルファの覇気が、大津波のようにダンスフロアを呑み込んだ。室温が急激に下がる。空気が文字通り凍りつき、その場にいたすべての人外たちの肺を容赦なく圧迫した。

 目の前にいた大柄な吸血鬼の顔から、一瞬にして血の気が引いた。彼は火傷でもしたかのように弾かれたように手を引っ込めると、絶対的な恐怖に顔を引き攣らせて後ずさった。

 私もその場に縫い止められたように動けなくなる。

 抑えきれない殺意と怒りを孕んだ、低く張り詰めた声が、死に絶えたような静寂を切り裂いた。

「その腕が惜しくないというのなら、喜んでもぎ取ってやろう」

 私の心臓が、激しく跳ねた。

 ゆっくりと……私は首を巡らせた。

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